場外

para la calle

42枚のアルバム

さいしょに

ハッシュタグ「私を構成する42枚」というものをツイッターで見かけたのでサイトで作成した。1ミュージシャンにつき1枚、私を構成したかはともかく、主に若いときによく聞いたアルバムを42枚。
並びはジャケットの色味順。タイトルの横の数字は発売年(聞いた年ではない)。



リスト

1. ↑THE HIGH-LOWS↓「FLASH ~BEST~」(2006)
2. トータス松本「TWISTIN' THE NIGHT AWAY」(2012)
3. THE BOOM「THE BOOM 2」(1997)
4. 加山雄三「グレイテスト・ヒッツ〜アビーロード・スタジオ・マスタリング」(2001)
5. 久石譲「魔女の宅急便イメージアルバム」(1989)
6. Various Artists「四月のピアノ」(1998)
7. 米津玄師「BOOTLEG」(2017)
8. ハナレグミ「音タイム」(2002)
9. タブラトゥーラ「蟹」(2000)
10. chilldspot「ingredients」(2021)
11. Various Artists「GREAT JAZZ VOCAL」(1987)
12. 中村一義「太陽」(1998)
13. GOING UNDER GROUND「かよわきエナジー」(2001)
14. 遊佐未森「檸檬」(2003)
15. 坂本真綾「夕凪LOOP」(2005)
16. 東京エスムジカ「World Scratch」(2004)
17. クリンゴン「ボブスレー」(2000)
18. The Offspring「Days Go By」(2012)
19. 川村結花「home again」(2000)
20. GRAPEVINE「Lifetime」(1999)
21. ストレイテナー「CREATURES」(2010)
22. FLYING KIDS「真夜中の革命」(1996)
23. SIBERIAN NEWSPAPER「0」(2012)
24. 竹内電気「PLAY」(2010)
25. Various Artists「chai SUNTORY OOLONG-CHA CM SONG COLLECTION」(2003)
26. 林原めぐみ「SPHERE」(1994)
27. GOMES THE HITMAN「weekend」(1999)
28. 明日、照らす「あなた」(2013)
29. TRAVIS「The Man Who」(1999)
30. Various Artists「LIVE Beautiful Songs」(2000)
31. 宇多田ヒカル「HEART STATION」(2008)
32. the HIATUS「Trash We'd Love」(2009)
33. TM Network「CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜」(1988)
34. WEST.「rainboW」(2021)
35. Crowns「Stitches in the Flag」(2012)
36. SPIRAL LIFE「Flourish」(1995)
37. 小沢健二「Eclectic」(2002)
38. Nothing's Carved In Stone「PARALLEL LIVES」(2009)
39. 矢野顕子「ピアノ・ナイトリィ」(1995)
40. 怒髪天「D-N°18 LIVE MASTERPIECE」(2011)
41. Hermann. H & The Pacemakers「SIX PACKS」(2001)
42. asobius「pray & grow」(2014)



1. ↑THE HIGH-LOWS↓「FLASH ~BEST~」(2006)
こういうのにベストアルバムを入れるのはどうなんだろう。でも私はブルーハーツもハイロウズもクロマニヨンズも通っていなくて、まともに聞いたのはこれ1枚ぐらいなので。アルバム収録曲のうち1曲だけを狂ったように聞いていたというのでいえばザ・クロマニヨンズの「スピードとナイフ」(アルバム「FIRE AGE」収録)のほうが多分聞いてるけど、アルバム単位でよく聞いたというとこれ。
以下、アルバムの1曲だけ狂ったように聞いたせいで全部通してはほとんど聞いてない、というアルバムは出てこない。あくまでアルバム単位でよく聞いたものだけ

2. トータス松本「TWISTIN' THE NIGHT AWAY」(2012)
サム・クックの完コピアルバム。CD屋でオリジナルの写真と並べられていたジャケットを見て爆笑して買ったものの、オリジナルと聞き比べてもまあまあ見事な完コピなので、それって意味あるんか?とも思いつつ(一応、企画の段階では原盤がレコードのみで中古価格も高騰し入手困難、CDはそもそも出ていなかったので、だったら歌ってしまおうということだったらしい)、シンガーのみなさんにおかれてはこういうカバーをがんがん出してほしい

3. THE BOOM「THE BOOM 2」(1997)
これもベストアルバム。ほぼ同時に出た青盤のほうも、もっと前の、最初に出た「THE BOOM」もよく聞いたけど、この赤盤をいちばんよく聞いた。「TIMBAL YELÉ」がめっちゃ好き。宮沢和史ソロの「Sixteenth Moon」もよく聞いた。とにかく宮沢和史をよく聞いていた。十代の終わりぐらい

4. 加山雄三「グレイテスト・ヒッツ〜アビーロード・スタジオ・マスタリング」(2001)
山下達郎もカバーしたシャレオツ極まる英語詞曲「ブーメラン・ベイビー」(珍しく加山雄三自身が詞を書いている。作曲はたくさんしてるけど作詞は少ない)とか、インスト曲とかも収録された、大変バランスのいい、これもベストアルバム。ベストアルバムが好き

5. 久石譲「魔女の宅急便イメージアルバム」(1989)
久石譲は本番のサントラ制作の前にイメージトラックを作るという手法をとっているらしく、これはサントラそのものではなくその原曲集。有名なテーマ曲の「海の見える街」は「風の丘」というタイトルで収録されている。原曲が「風の丘」、本編で実際に使われたのが「海の見える街」、ボーカル付きが「めぐる季節」。「風の丘」をはじめて聞いたときに「人間はこんな美しい音楽が作れる生き物なのか」と感動して泣いた。11歳ぐらいのとき。当時うちにはCDのプレーヤーがなかったので、レーザーディスクのプレーヤーに入れて、テレビにヘッドフォンをつないで、テレビの真っ青な外部入力画面にカックカクの白字で「Track [01] [02] [03]…」と表示されているのを見つめながら聞いていた。あんなに「聞く」以外のことを何もせずに音楽を聞くことも今ではなかなかないなと思う

6. Various Artists「四月のピアノ」(1998)
岩井俊二監督映画「四月物語」のサントラ。映画自体には別に思い入れもないけどなぜかよく聞いた。「休日の歌」という、ボーカル入りの曲が1曲だけ入っていてすごく好きだった。主題歌とかではなく、映画本編で主人公が大学構内を歩いているときに軽音楽サークルかなんかが演奏している劇中歌というやつ

7. 米津玄師「BOOTLEG」(2017)
米津玄師は米津玄師名義の1枚目が出たときぐらいに今はなき梅田堂山のTSUTAYAで面陳されていて借りて聞いて、そのあとどういう人かもいまいち知らずに作品だけを追っていたらなんかどんどん化け物みたいになっていくし売れるし、なんかすごいな、みたいな感じでふんわり聞いていたところ、このアルバムが出たタイミング(2017年11月1日)で大和がFA権を行使した(11月5日。移籍発表は11月30日)ので、あの11月の1か月はものすごく情緒不安定な中でこのアルバムだけを気持ち悪いほどリピートしていたなという思い出。「Nighthawks」がめちゃくちゃ好き

8. ハナレグミ「音タイム」(2002)
これは当時「音楽好きならこれは聞くよな!」みたいな感じでめっちゃ売れていたという印象。だから何をきっかけにとかそういうのは思い出せない。気づいたら聞いていたような…多分中村一義→池ちゃん→SUPER BUTTER DOG→ハナレグミという感じで辿っていってるはず

9. タブラトゥーラ「蟹」(2000)
漫画家つのだじろうと歌手つのだ☆ひろの兄弟であるリュート奏者つのだたかしを中心とした古楽器のバンドによるインストアルバム。タブラトゥーラは是枝裕和監督映画「花よりもなほ」(2006年)のサントラを担当していて、それがすごくよかったので(残念ながらCDアルバムとしては出ておらず、謎の「サントラDVD」というものがメイキングと抱き合わせで発売されている)、じゃあ他のアルバムを、と探して聞いたもの

10. chilldspot「ingredients」(2021)
別に私を構成してはいないけど新しい音楽が全然入ってないなと思って入れた。ラジオで聞いて最近知ったバンド。めっちゃいい

11. Various Artists「GREAT JAZZ VOCAL」(1987)
多分ソニーから大昔に出たジャズのコンピレーション。図書館で借りてめちゃくちゃ聞いたもの。なので現物は持っていない。もしMDが擦り切れるんだったら擦り切れるぐらい聞き込んだなというアルバム。イーディ・ゴーメの歌う「The Gift」という曲が特に好きで、よそで聞いたことがなかったので謎の曲だと長年思っていたけど、あるとき連れてってもらった北新地のバーでピアニストが偶然それを弾いてくれて、「実在する曲なんや!」と思った(※めちゃくちゃ普通にスタンダードナンバーなのを知らなかっただけ)

12. 中村一義「太陽」(1998)
中村一義はどれを入れるか迷う程度にはめちゃめちゃ聞いていたので迷った。「晴れたり、曇ったり」をよく鼻歌で歌っていたなと思ってこれに。なつかしい

13. GOING UNDER GROUND「かよわきエナジー」(2001)
ゴーイングは私を構成するとかそういうレベルではない。レベルではないというか、もしゴーイングのアルバムが42枚あればもうそれがすべて。好きなアルバムというとまた別だけど、あえて「構成」というなら初期のかな、と思ってこれ

14. 遊佐未森「檸檬」(2003)
大正から昭和の歌謡曲などを中心としたカバーアルバム。カバーアルバムも好き。原由子の「東京タムレ」とかもよく聞いた。遊佐未森自体は十代の頃から好きで、オリジナルアルバムだと「HOPE」「momoism」「roka」をよく聞いていた。私を構成する、というのだったら「HOPE」のほうがそうかもしれない

15. 坂本真綾「夕凪LOOP」(2005)
アニメは全然見ないのに90年代に声優の楽曲がすごく好きだった(クラシカルなポップスとしてのよさが当時の声優の楽曲にはあったので)というのもあって、坂本真綾といえば「約束はいらない」でアニメ界に殴り込んできたすごいやつ、であり、あの曲をまずCDTVでサビだけ聞いてびっくりしたのをよく覚えてる。以来、全部ではないもののそれなりにアルバムだけは追いかけていて(今確認したら2枚ぐらいは聞けてない)、いちばん好きなのがこのアルバム。GOMES THE HITMANの山田稔明が関わっているミニアルバム「30minutes night flight」も好き。あれはアルバムのデザイナーまでGOMES THE HITMANの作品と同じで嬉しかった。好きなものと好きなものが合流すると嬉しい

16. 東京エスムジカ「World Scratch」(2004)
多国籍風音楽が好きなら絶対好きというツインボーカルユニットのアルバム。曲ごとにジャンルが違う。いちばん好きなのはcobaによるアコーディオンが入ったイタリア風の「泥の花」という曲。ボーカル2人の声がそれぞれ特徴があってとてもよいのだが、映像などを見たことがないのでいまだにどっちの声がどっちの人なのか知らない

17. クリンゴン「ボブスレー」(2000)
埃臭い大学生時代によく聞いていた。とにかく最初からピアノロック、鍵盤の入った音楽が好きだったんだなと思う

18. The Offspring「Days Go By」(2012)
洋楽をあんまり聞かないので何でこれを買ったのだかあまり覚えていない。同時期に出たLINKIN PARKの新譜といっしょに買ったような…。ただなんかその2枚はよく聞いた。特にどっちを聞いたかなといったらこっちかなと思ったので

19. 川村結花「home again」(2000)
どのぐらいと言葉でいえないぐらいよく聞いた

20. GRAPEVINE「Lifetime」(1999)
TRICERATOPSの「THE GREAT SKELETON'S MUSIC GUIDE BOOK」(「FEVER」のイントロが好きすぎて最早その1曲前の「GUATEMARA」のフェードアウトアウトロまで好きだったぐらい繰り返し聞いてた(聞き返したらフェードアウトじゃなかった))と迷ったけどこっち。ずっと聞き続けたわけではなく一時期集中して聞いていたものなので、いま聞き返すと聞いていた当時の感情がありありと蘇る。近所の商店街のCD屋でこれの次のアルバム「Here」を予約取寄せして買って家に帰って袋を開けたらGONTITIが入っていたのもなつかしい。G列に置いてあったんやね

21. ストレイテナー「CREATURES」(2010)
テナーはもともとホリエアツシの声がまったく好きではなくて、the HIATUSとのスプリットツアーだったBrain Ecripse Tourで初めて見て突然落ちた。いまでも好みの声かといわれたら全然だけどホリエアツシは天才だと思う

22. FLYING KIDS「真夜中の革命」(1996)
オンタイムで聞いていたわけではなくあとから聞いて好きになったアルバム。インスト曲の「新しい自転車」が好き。インストが入ってるアルバムが好きなんやな、多分。あと「ブルー」という曲がものすごく好き。歌詞がとにかく好き。私は世代が違うので想像するしかないけど、きっとメンバーと同世代の人が聞いたらなつかしさで胸がしめつけられると思う

23. SIBERIAN NEWSPAPER「0」(2012)
もともとは友達がファンで、ライブにお付き合いで行った結果私もファンになった。フロアの真ん中で演奏するライブとか、オールナイトライブとか、いろんなタイプのライブをしてくれたので、いろんな経験をさせてもらった。このアルバムを出したあと活動休止し、何年か前に活動再開し、いまはバンドの拠点にする倉庫を買って改装中とのことで、おじさん(※年齢は知らない)のセカンドライフ的な活動になっていくのかな。再開後のライブには1回しか行けてない。活動休止前の最後のライブでメンバーが冗談で「復帰するときは一発目にヴァッケン・オープン・エア(ドイツのヘビメタのフェス)に出る」みたいなこと言ってたときにはそれでも行くつもりやったけど…

24. 竹内電気「PLAY」(2010)
2009年にOCEANLANEのJet Banquet Tourというツーマンツアーを見に行ったときゲストバンドで出ていたのが竹内電気だった。2019年の同窓会東名阪ツアー、プレミア12の決勝とかぶってたのに、大阪のライブも行ったのに、迷わず野球を捨てて名古屋のライブも見に行ったあたりからどれだけ入れ込んでいたかお察しください(東京も行きたかったけど名古屋→大阪→東京の順でチケットを取ったら秒で売り切れていて取れなかった)。多分解散直前の竹電のライブの常連全国ランキング2、30位以内には入るぐらい細かいイベントライブまで見に行ってたと思う。解散ライブの本編ラストでこのアルバムに入ってる「アンラッキー・レボリューション」のイントロ(※音源にはない)聞いて自分の涙で溺れそうなぐらい泣いた

25. Various Artists「chai SUNTORY OOLONG-CHA CM SONG COLLECTION」(2003)
サントリーウーロン茶のCMに使われていた、日本のポップスの中国語カバーを集めたコンピレーション。めちゃめちゃ聞いた。いま調べたら15万枚も売れたらしい。そうなんや。いまやったらCMソングのコンピが15万枚売れるとか考えられへんな

26. 林原めぐみ「SPHERE」(1994)
林原めぐみは「Irāvatī」までのアルバムは全部聞いて、いちばん好きだったのがこのアルバム。これに入ってる「星を飛び越えて」という曲が私も友達も大好きで、ただ私も友達も二人して「最初に聞いたときはすごく変な曲だと思った」という印象を持っていて、いま聞き返してみても普通の佳曲で、何がそんなに変な曲に思えたのかさっぱりわからない。初聴の人にだけ伝わる何かがあるのかもしれない。「Until Strawberry Sherbet」の日本語ラップと英語ラップを友達と手分けして覚えて完コピを試みたりした青春の思い出が詰まってる。2017年に行われたファーストライブのタイトルが「あなたに会いに来て」だったのには震えた

27. GOMES THE HITMAN「weekend」(1999)
何をきっかけに知ったのか忘れたけど、ものすごくたくさん聞いたアルバム。「お別れの手紙」からの「train song」の流れは天才的だといまも思う

28. 明日、照らす「あなた」(2013)
「リストとカッター」という曲(※リストカットとは関係ない)に竹内電気の山下さんがキーボードで参加していて、竹電が解散してやるせない気持ちを持て余していた時期に「これが山下さんの最後の音源か…」と思いながらよく聞いた(山下さんが突然バンドを辞めたことが解散に至る原因だったので)

29. TRAVIS「The Man Who」(1999)
スペシャだかMTVだかで「Why does it always rain on me?」のMVを見て買ったアルバム。近所の商店街のCD屋(20のところとは別)で買ったとき、いつもだるそうな店員の兄さんが妙に愛想良く包んでくれた。ファンだったのかもしれない。中村一義が当時FM802の「MUSIC FREAKS」のDJを担当していて、番組内で「TRAVISの新譜よかったですよね」と話していて、なんとなく嬉しかったのが記憶にある

30. Various Artists「LIVE Beautiful Songs」(2000)
矢野顕子、大貫妙子、鈴木慶一、宮沢和史、奥田民生による企画コンサートのライブ盤。NHKかなんかでドキュメンタリーを放送していて知った。第2弾もあって、行きたいなと思ったのだけど当時私はほぼコンサートに行ったことがなかったので、チケットの値段に尻込みしている間に終わってしまった。人生最初に行ったライブ(イベントライブ)が1999年で、その次に行ったの(ゴーイングのワンマン)が2009年で、その間の10年ぐらいはどうやって生きていたものか記憶にない。生きるのに必死だったのかもしれない。1999年に行ったイベントライブでPOLYSICSが食パンを投げていたことは覚えている

31. 宇多田ヒカル「HEART STATION」(2008)
生きるのに必死だったのかもしれない時期の私にも有名どころはまあまあリーチしていたということだと思う。通勤電車でよく聞いていた。「Celebrate」がめちゃくちゃ好き

32. the HIATUS「Trash We'd Love」(2009)
当時勤めていた会社で転勤を言い渡されるのと同時に見合いをしていて精神がしっちゃかめっちゃかだったので、「もうどうにでもなーれ」と仕事をブン投げてなんばHatchのライブに行ったのを思い出す。翌月には転勤も見合いも断り自由の身になり友達に誘われて札幌に競馬を見に行ったりした。見合い相手の家族からは気に入ってもらっていたので「お嫁にこないの?」と残念がられた。多分ラジオかテレビ(JAPAN COUNTDOWNとか)か何かで断片的に聞いて、案の定鍵盤が入っていることで引っかかった気がする

33. TM Network「CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜」(1988)
学校で小説の「ユンカース・カム・ヒア」が(多分文庫本が発売されたタイミングで、リバイバルで)流行っていたことなどをきっかけに、オンタイムでではなく、あとから聞いたアルバム。友達に借りたような気がする。いまでも「STILL LOVE HER」のイントロを聞くと泣きそうになる

34. WEST.「rainboW」(2021)
2022年の春に突然エンカウントしたアイドルのアルバム。聞けば聞くほど、ファンしか聞いてないのがもったいないと思う。事務所も事務所だしグループ名もグループ名だし今後どうなるものかわからないけど幸せでいてほしい
* 記載のグループ名を新名称に変更しました。[2023-10-23 追記]

35. Crowns「Stitches in the Flag」(2012)
何から知ったのかさっぱり覚えていないイギリス・コーンウォールのアイリッシュパンクバンドのアルバム。まんまポーグスだと言われたり、あまりセールスはふるわなかったのか、アルバム2枚で解散し、最近突如として再結成した。地元では愛されているのか男女混成のコーラスグループがイベントで楽曲をカバーしている動画などをフォロワーの少ないインスタでシェアしてくれる。このアルバムにも「Windmill hill」というすごくかわいいインスト曲が入っていて好き

36. SPIRAL LIFE「Flourish」(1995)
全然真正面から通ってはないけど後追いでよく聞いた。オンタイムでは知らなかった分、私のなかではサブカルド真ん中の音楽という位置付けだったので、後年NHKの「トップランナー」のCMで田辺誠一が「MAYBE TRUE」を歌っていたり、フジテレビの「ミュージックフェア」で堂珍嘉邦が「STEP TO FAR」をカバーしていたりして、あ、有名なんや、と思ったりもした

37. 小沢健二「Eclectic」(2002)
「球体の奏でる音楽」と迷ったけどフルリピートで聞いた回数でいえばこっちかなと思ってこっち。歌の気持ち悪さを凌駕するよさがある

38. Nothing's Carved In Stone「PARALLEL LIVES」(2009)
この頃にライブに行くようになって、ハイエイタスを聞くようになって、その流れで聞いた。エルレも通ってないから、この時期ぐらいからまっさらの状態で邦ロックを履修する過程で聞いたはず

39. 矢野顕子「ピアノ・ナイトリィ」(1995)
いくえみ綾の漫画で矢野顕子の名前が出てきて、どういう音楽やろ?と興味を持ったのがきっかけで聞いた。当時ミッションスクールに通っていたので、学校でよく聞く機会のあった大中寅二や小坂忠の曲も入っていて親近感をもったというのもある気がする

40. 怒髪天「D-N°18 LIVE MASTERPIECE」(2011)
2009年にライブに行くようになった集大成としてその年の暮れのRADIO CRAZYに行って、多分ハイエイタスとかサカナクションとか目当てで行ったのに全部怒髪天で上書きされて帰ってきた。ベストアルバム以外もいいんやけどバンドの歴史が長い分追い切れなくてこのベストアルバムは助かったしよく聞き込んだ。これとほぼ同時に出た配信アルバム「D-N°18 LIFE MASTERPIECE」(※黒ジャケットがLIVE、白ジャケットがLIFE)の音量がめちゃくちゃちっちゃい。あれはなんかのミスだと思う

41. Hermann. H & The Pacemakers「SIX PACKS」(2001)
どちらかといえば陰鬱なタイプの和物ロックを中心に聞いていたっぽい大学時代によく聞いていたアルバム。とはいえやっぱり鍵盤が入ってて、どうしても鍵盤が入ったバンドが好きなんやなと思う

42. asobius「pray & grow」(2014)
何から知ったか忘れたバンド。同じ曲が10曲ずつ英語ボーカルと日本語ボーカルで収録されているというわりと奇妙なチャレンジアルバムで、まあまあどっちのディスクもよく聞いた。ライブがすごくよかったのでよく行っていた。ボーカル以外が全員脱退し、ソロプロジェクトとして名前だけ残して事実上解散したらしい


42枚振り返ってわかること

・鍵盤の入った音楽が好き
・インスト曲の入ったアルバムが好き
・男声はグループやバンド、女声はソロが好き
・2000年前後を最後に2000年代の10年間、特に後半5年間はほとんど新しい音楽を聞いていない
・2009年に当時の会社をやめて、2014年に野球を見始めるまではまたちょろちょろ聞いている
・野球を見始めてからは新しい音楽をあんまり聞いていない
ということだと思う。わかりやすいね。
「42枚」じゃなく「42曲」だとしたらここに入れたのとはまた全然違うのになると思う。


作成したサイト

WEST. LIVE TOUR 2023 POWER

記事タイトルと本文のグループ・事務所の呼称および関連部分の表現を一部修正しました。[2023-10-23 追記]

はじめてアイドルのコンサートに行った人間の備忘録です。


チケット

1月にアルバムリード曲の「POWER」のMVが公開されたときが確かツアーのチケット抽選申込期限ギリギリのタイミングで、MVの出来がいいなと思った。いっぺんコンサートを見てみたいなという気持ちになった。調べたところ、チケットはほぼファンクラブ会員向けにしか販売されず、プレイガイド取扱の一般販売は空売りに等しく、リセールもないとのこと。
ファンのかたには申し訳ないけど当該の事務所のファンクラブへの入会には抵抗感があった。CDをさんざん買っておいて何を今更なのはご尤もで、何と考えていたとしても詭弁と言われれば申し開きのしようもない。でもアイドルグループというのが何歳ぐらいまで活動するものなのか私にはわからず、そもそもこの事務所・このグループ名(※2023年1月当時)[2023-10-23追記]で今後恙無く活動を継続する目があるものかも危ぶまれ、だったらもう今が最初で最後のタイミングかなあと、数日考えたすえにファンクラブ入会申込をして、大阪公演のチケット抽選に申し込んで当選した。全席一律8800円+申込手数料800円の合計9600円。ファンクラブ入会費用は5140円 (入会金1000円、年会費4000円、事務手数料140円)。
申込手数料は、名称に反して、当選したチケットにのみかかる手数料という。1公演につき2枚まで申込できるそうで、2枚当選のときも2枚で800円なのかな?でなければ実質的には総額9600円のチケット代であるといえる。当選時に即時決済ではなく入金手続が必要。改善の余地はいくらでもありそうなシステムではあるものの、チケットに限ったことではないし、本筋ではないので触れない。
チケットぴあ取扱の一般販売ではチケット代9300円(各種手数料550円がかかり、合計9850円)。


服装・持ち物

来場者は意外と、みんながみんなメンバーカラーのすごい服を着ているわけでもなかった。意図せずメンバーカラーの服を着るなどした状態でローカルルール違反をしてしまってそのカラーのメンバーの印象を悪くするとかいったことは避けたかったので無彩色の服で行った。
私はビジターファンとして行った神宮球場でヤクルト応援傘を買うような人間なので、「ペンライト必須」という口コミを目にして、うーん、要るんかなあと考えたものの、公式グッズのペンライトがダンベル型だったので、たった1回使うだけでそれはちょっと持て余すな、と思って見送った。去年までだったら家で吉田正尚のチャンスダンベル代わりに振って再利用できたかもしれない、でも正尚はもういないので。あったほうがよかったか、と聞かれたら、若干手持ち無沙汰だったのは事実、と答えたい。阪神タイガースが勝ち試合後に振るためだけのペンライトを最近新発売して、それは買ったので、楽しいのはわかる。
あとは野球観戦で使っている双眼鏡を持っていった。持ち物の財布・スマホ・双眼鏡・ハンカチ、全部ズボンのポケットに入れたら手ぶらで事足りるような軽装で、どしゃ降りだったのでビーサンで行き、濡れた折り畳み傘をスーパーのレジ袋に入れて持ち込んで、出てきたメンバーのきらびやかな出で立ちを見て、しまった、ちょっと演者に失礼な恰好で来たな、と思った。


会場

大阪城ホール。意外とそんなに広くない会場でやるんやなと思った。アイドルのコンサートはすべてドーム公演だと思っていた。
大阪城ホールは利用する側として行ったことが一度あるきりで、そのときは機材搬入口から出入りしたので正面玄関を今回はじめて見た。傘を畳む人などで軒下が混み合うなか、スーツ姿の大勢のスタッフのかたがキビキビと列を捌いていた。入口には、録音機器の持ち込み禁止などの表示と並べて、規定サイズ確認のための団扇の実物の例示や、「ネームボード」の持ち込み禁止、といった掲示があった。ここに実物を貼るためにイベンターのかたが100均とかで団扇を買うのかな、と思ったらちょっと可笑しくなった。
中に入るとコンコースの壁際の地べたに座っている人が物凄くたくさんいて、たくさんというか、地べたに座る人か壁にもたれる人ですべての壁際が埋まっていて、雨でじめじめしていたのもあって戦時下の地下壕じみた雰囲気だったのでびっくりした。ロビーの混雑緩和のためにも座席で待つようにという館内アナウンスが再三流れているのにもかかわらず、なぜ座席に座って待っていないんだろう?座席の離れたお友達と旧交を温めているのかな?と思ったけど、あとで、それ以外にも座席に行かない理由がある人がいるのだろうなと察する出来事があった。なんしか今からよそさまの椅子に座るのにその前に地べたに座るのはいかがなものかなと思った。ビーサンで来たやつに言われたくないやろうけど。
トイレは多いらしく、巡回スタッフのかたにより、すいたトイレへの案内が徹底されていた。トイレ個室扉の戸尻側上方にはペナントのような小さなボードが取り付けられていて、扉が開いていればそのボードが個室外側に出っ張るので遠目に空きが一目でわかるというすばらしくアイデア力のあるデザインに感心した。アナログでローコストで、どこも見習うといい仕組みだと思う。(※追記:このあと、甲子園球場でも一部のトイレでは同じ仕組みが導入されていることに気づいてびっくりした。これはもう実家みたいなもんで、よく行っているところほど見てないものなのだなと思った。)


座席

オリックス戦みたいに、入場口でデジタルチケットのQRコードを呈示するとその場で紙の座席券が発行される仕組み。オリックス戦のペラペラの感熱紙と違い、裏面にコンサートタイトルロゴのプリントされたしっかりした紙で、一瞬でパタッと出てくる。これは甲子園球場のこうチケの発券機の感じに近い。紙質も似ている。
デジタルチケットはQRコードの周囲にGIFアニメのようなものが点滅している。スクリーンショットではないことが一見でわかるようにだろうけど、ごく単純なアニメーションで、ページごと簡単に偽造できそうではあるので、全体の運用のなかではこれは瑣末なことなのだろう。電波障害等に備え、事前にこのページを表示させてそのまま来場するように、という主旨の注意書きもあり、ブラウザが勝手にリフレッシュされない限りは入場時のサーバアクセスが求められるものでもない。
注意事項には身分証明書とファンクラブ会員証を持参するようにと記載されていたけど、呈示は求められなかった。
席種はアリーナ席とスタンド席があり、座席券発行まで席種も含めどこの座席が当たっているのかいっさいわからない。席種も?と思ったけど、アイドルに限らず、大規模なコンサートを行うミュージシャンはわりと導入しているシステムらしい。
私に割り当てられたのはスタンド席で、ハッチから入場したところの中段通路から3段降りた席。1枚申込のチケットというのは、プロ野球でもそうだけど通路側席が当たりやすいもので、なんとなく通路側席が当たるのではないかと思っていたらやっぱり通路側席だった。ちょうど階段通路越しに視界がひらけて見やすいうえに、傾斜もけっこうあり、ステージからは遠いものの全体が見渡せて、雰囲気を楽しむのにすごく良い席だった。
開演前、隣の席の黒っぽい服装の2人組客が座席に座らずにスマホを操作しながら小声で話し合っていて、開演15分前に2人で大荷物を全部持って出ていったので、トイレかな、間に合うかな?と思っていたら、開演10分前に白っぽい服装の2人組客、つまり別人が来て席についた。うわ、怖、と思った。コンコースで地べたに座っていた人たちのなかにもこういった座席トレードを行っていた人がいたのかなと、そこで気がついた。
私は良席だと思ったものの、近くで見たいとか演者の目に留まりたいとかいう欲は叶えられそうにない席なので、じゃあこの人たちはアリーナ席かなんかを売ってここへ来たのかな?でも手製の団扇を持っている。ファンではあるのだな、何で席を代わったんだろう、と不思議に思ったけど、所詮他人事なので深く考えないようにした。


客入れSE・影アナ

客入れSEは全部既発表曲のバックトラックだと思う。音が小さくてボーカルが聞こえなかっただけかもしれない。シングル曲ではない、つまりバックトラックが音源として世に出ていない曲もかかっていて、せっかくだからもうちょっと大きい音で聞かせてほしかった。しかしたとえばライブハウスなんかだと客入れSEは出演者の作ったプレイリストだとかが、つまり出演者の曲ではない曲が流れているもので、演者の曲、それもカラオケがかかっているというのも独特だなと思った。
待っていると、ラインが繋がっているか確認するようにギターの音が一瞬鳴って、生バンドが入っているとわかった。開演時間近くになると「ええじゃないか」がすこし大きな音量で流れ出し、お客さんが歌い出したので驚いた。曲終盤にはたくさんのお客さんが突然声を揃えて「もう一回!!!」と合いの手を入れたので、急なことだったためビクッとした。
お客さんの声出しが終わるとなかやまきんに君による録音の影アナが始まった。めちゃめちゃ笑った。影アナだけど、ステージ両袖と、後方スタンドの上部にある、合計三つのサブビジョンに書き起こし字幕が出るのが親切。おもしろかったので内容は頭に入ってこなかった。多分オーソドックスに撮影禁止だとかそういう注意事項を言っていたと思う。


ステージの構成

大阪城ホールの座席表ページのステージパターンBの構成に、正面ステージ真ん中からアリーナを割るように花道が伸びて、アリーナ中心よりすこし正面ステージ寄り、多分正面ステージでつぶした分も含めたアリーナ全長の真ん中に中央ステージが、それを通り越して花道のドン突きにサブステージがある。中央ステージから脇方向にも花道が出ていて、これは正面ステージの左右端からスタンド沿いに伸びる花道と繋がっている。合流点も小さいステージ状だった気がする。
サブステージは花道から数段上がって、スタンド最下段に近い高さで、ステージの淵を残した中央部分の床が、せりとは逆でジャッキアップされる仕組み。ゆっくりとではあるものの、けっこうな高さまで上がるのに柵も支えもないし命綱もなさそう。よく事故を起こさずやれているなと感心した。起こしているのかもしれないけど。揺れそうなのに普通にパフォーマンスしていた。公演中何度か、メンバーが足を投げ出して座っているときなどに靴裏を双眼鏡で見てみたけれど、滑り止め加工などもしていない普通の靴に見えた。
ステージが四方にあるものの、アリーナの椅子はすべて正面ステージを向いて並べられていて、立って見る前提にしても、花道やサブステージを見ようとしたらぐるぐる体の向きを変えなければならず、見上げる場面も多そうで、近いのは近いけどアリーナ席は見づらそう。
野球にしても、低い位置の座席はプレーが見づらいので私はあまり好きではなくて、極力上のほうの座席を買うけど、グラウンドが近くて迫力があるという理由で下のほうの座席を好む人もいるし、このへんは人によるだろうなと思った。アリーナかスタンドかぐらいは選ばせてくれてもよさそうなものだけど、それも揉めるのかな。
花道を通って各ステージへ移動するので、正面ステージから一番遠いスタンドにいてもけっこう近くまで来るんやなあ、と思っていたら、サブステージから、サブステージと同じ高さの一人乗りの移動ステージにメンバーが乗り移って、その移動ステージが1台ずつ、アリーナ外周、スタンドのきわを人力で押されて移動して周回するという演出があり、人力!!!と驚いた。押しているスタッフのかたを双眼鏡でガン見した。スタックした車を数人で押しているような風情だった。あるミュージシャンが、昔、大掛かりなコンサートを行うことで有名な国民的音楽ユニットのコンサートスタッフをしていて、人力でステージを回すタイミングを思い切り間違って即クビになったという話をしていたけど、ああ、こういうのの段取り間違ったらそらクビになるやろな、と思った。
PA席がどこにあるのか全然わからなかったけど、終演後に退出するときに見たら自分がいたスタンドの死角、サブステージの脇にあった。
さりとてスタンド席は遠いよな、自分はそれでも中段通路よりも下だけれど、上のほうの席は遠いんちゃうかなあと思っていたら、アンコールでは正面ステージセットの両袖、スタンド階中段通路からセット裏に通じる揚幕あげまくのようなものが開いて、今度は保育園のお散歩カートみたいなやつにメンバーが一人ずつ乗って、やはり人力で押されて出てきて中段通路を周回するという演出があり、これはいっさい想定していなかったので心底驚いた。想像の範囲外の力業を目の当たりにするとなぜか笑いが止まらなくなってしまうものなのだなと思った。全席同じ値段で売るなら確かにそのぐらいのサービスは要るよな、ここ通ったらええサービスなるやんって考えた人がおったんや。階段通路上端にスタッフのかたがしゃがんで両腕を広げて、客が通路に出ないようにブロックしておられた。そういう演出の場合、客が急に腹を下してもトイレに行けなくなるけど、演出の都合上ホールから退出できない時間帯がある旨の事前告知は特になかったように思う。きんに君が言うてたんかな。主催者を問わずこの規模のコンサートではそういう演出があるというのが常識なのかもしれない。プロ野球もライブハウスもトイレは行き放題なので考えたことがなかった。
というわけで、メンバーの多分全員が5メートルほどの距離のところを通っていくというこの演出と、あと隣の席の、多分座席をトレードして来た人が、特定のメンバーが通るときに団扇を振ってアピールしているのを目にし、ああ、ここがよくて来た可能性もあるのか、と思いながらお散歩カートを見ていた。
なおこれはやっぱり基本的にはスタンド上方のお客さん向けのサービスのようで、メンバーは大体は上の客席を向いていたものの、こちらが通路側席だったのもあって階段通路越しに、たまたま下方の座席を覗き込みながら通過する重岡さんがよく見え、顔が過剰に良いな…と見ていたら目が合ったので、お、と思って咄嗟にマスクから出た目だけでニッと笑ったところ笑い返されたのでびっくりした。ペンライトも団扇も持っていない人間に向かって愛想させてしまって申し訳ないな~という気持ちにもなった。まあでも全部勘違いかもしれないね。重岡さんの顔が過剰に良かったのは事実。


ステージセットとビジョン、演出

想像よりはシンプルなセットで、正面ステージにはスクリーン式?の大型ビジョンがあり、ステージ奥にバンドセットがあり、その手前、ビジョン下に雛壇が何段かあり、ステージには横に細長いせりがあって、それはメンバーが演奏する楽器が楽器台に載って出てくる際に一度使われた。ステージや花道のフチが多分LED照明でいろんな色に光るのは、演出でもあるし事故防止策でもあるのかな。光っていないときも多かった。私なら踏み外す。球場の照明も近年急速にLED化が進んでいる。コンサート照明も、技術面・コスト面の双方で、実現可能な演出がどんどん増えているのだろうなと思う。
全体の照明はわりとどの曲でもオーソドックスだったように思う。もっとレーザーライトなどを駆使して派手にビリビリやるものかと思っていたけど、それはコンサートのコンセプトや会場規模にもよるのかもしれない。
大型ビジョンは、全曲ではないもののメンバーが抜かれたり、演出映像が映されたり、サブビジョンにはビジョンの映像に加えてカラオケのように歌詞が表示され、これも親切。しかし収録のためではなくあのビジョンに映すためだけにあれだけカメラが入ってるんや。サブビジョンぐらいならフェスでも見るけど、たくさんの演者をああいうふうにリアルタイムで映すとなると演者も含めてスイッチングとかもバッチバチに決めておかないといけないし、本番中もすべてのカメラマンに何をどう押さえてほしいかをディレクターが指示出ししながら映しているのかな。
特効はいくつかの曲でステージ前方のへりなどに火柱あり。あとどこだったか1曲スモークあり。テープの発射2回あり。


演奏

アイドルは全部口パクだという思い込みがあり、音楽番組などを見るたびに口パクではないことに驚くし、他のアイドルグループは見ないので今どきのアイドルがどうしているものか知らない。コンサートはどうなんだろう、と思っていたけど、基本的にはマイクがオンで実際に歌っていて、録音の声もかぶせて流していたりはするのかな、そしてダンスパフォーマンス曲は口パク、というふうに、適宜使い分けられているらしい。口パクっていう言い方はダメなんかな、リップシンクと呼ぶといいのかな、現代では。
ダンスパフォーマンス曲は想像していたよりも少なかった。これもコンサートのコンセプトによっても違うのかもしれない。バックトラックもすべて録音だろうと思い込んでいたので、実際録音が流れる曲もあるけど、ステージ後方の5人の生バンドが演奏する曲が多かったのが意外だった。バンドメンバーは本編とアンコールの二度紹介されたけど、二度とも下の名前しか紹介されなかったため、記憶していた名前を頼りに後日調べたものの、全員は覚えていられずわからなかった。下手しもてから順に
・キーボード 井上薫さん
・ギター(×2) 坂本遥さんともうお一人
・ベース 林あぐりさん
・ドラムス 渡邊シンさん
だったと思う。ギターのお一人が、名前を忘れてしまったのでわからない。すみません。
客から見えにくい位置で演奏してもらうのでもなく、逆にむしろ派手な衣裳を着てもらってステージ装飾の一端を担ってもらうのでもなく、黒っぽい目立たない衣裳で揃えたうえでバンドセットを敢えて見せている、と解釈すれば、お飾りじゃない、リスクのほうが大きいはずの生演奏にもこだわりがあるということなのかなあと思う。ただビジョンをまたいで配置されているので、キーボードからドラムスまでは相当な距離があって、多分同期も流れていると思うけど、それでも演奏に差し障りないんやろうか?と思った。
特にキーボードとギターのかたはときどき腕を振り上げて煽ったりもしておられ、おっ、かっこいいなと思いながら、バンドはビジョンには映らないので双眼鏡で見たりした。生演奏だけのライブというのもアイドルでもやったりするものなのかな、ファンの規模が規模なだけにきっと難しいのだろうけど。


セットリスト

ツアータイトルがアルバムと同一なのでアルバムリリースツアーだと思ったのだけど、そういうことでもないのか、アルバム収録新録曲20曲のうち6曲はセットリストに入っていなかった。全曲やったらそれだけで終わってまうもんな、とも思うし、アルバムで私の1番目2番目に好きな「Strike a blow」と「Guilty」は入っていたので不満はない。じゃあ何のための音源リリースだという疑問は湧くけど、それはもう、1タイトルにつき4枚売らないといけないからだろうな、じゃなかったら重複するトラックを買わないと楽曲をコンプリートできないような売り方はしないだろう。
それよりも、何よりも、びっくりしたのはフルコーラスやらない曲がほとんどだったことで、その発想はなかったな!本当にびっくりした。
ロックのライブなんかだと、全曲フルが当たり前で、むしろイントロが追加されたり、間奏でコール・アンド・レスポンスだとかギターソロのアレンジだとか語りだとかが入ったりした結果、音源の倍以上の尺になるなんていうのもよくあることで、曲をダイジェストしてあるというのは斬新やな~と思った。ライブDVD収録曲リストなんかを見て、えらいようさん曲やんねやな、何公演分か入ってんのかなと思っていたのだけど、そういうことかと腑に落ちた。そしてとにかく衣裳替えが多い。そんなにか?っていうぐらいお色直しする。アイドルのコンサートってショーなんやなあ、と思った。ときどき演者が全員ハケて、その間にビジョンに演出映像が流れるところがあり、なるほどこういうのを使って時間を稼ぐのか、と思った。

(以下のセットリストの曲目と順番はインターネット上の情報を鵜呑みにしました)

・僕らの理由
・ええじゃないか
・WEST NIGHT
・週刊うまくいく曜日
しょっぱなアルバム曲じゃない。
この選曲は、今回のコンサートはシンプルに曲を聞かそうというコンセプトの宣誓のようにも思われ、私は基本的には「僕らの理由」のような感じの曲が好きな人間なので、普段聞いているジャンルからそれほど遠くないものを見せてくれるのかも、と期待を持ったところ、次の曲に際して急に怪鳥じみたポーズを取りはじめたので、これはなんやろ…、と思った。毎回するのかな。曲途中でアクロバットをやっている人がいて、うわ!アイドル!と思った。目が悪いのでよく見えず誰かはわからない。多分濵田さんと神山さんかなあ。

・Rewind It Back
・Mood
多分「Rewind It Back」のときに花道で等間隔に並んでSmooth Criminalのゼロ・グラヴィティをやっていた。双眼鏡を出すのが遅れたし照明は暗めだったので仕掛けは見えなかった。残念。フィジカルの見せ場はよく見たい。ここでは靴裏は見ていない。見えるタイミングがなかった。ここはダンスパートなのでCD音源と同じボーカルが流れていたと思う。
・膝銀座
・アンノウン
・Strike a blow
・サムシング・ニュー
「膝銀座」は演出映像に友近さん出演。
「アンノウン」は中間さんと藤井さんのサックス演奏あり。「Strike a blow」は神山さんのギター演奏あり、ボーナストラックだからセットリストに入っていないかもしれないなと思って行ったので、イントロを聞いてテンションが爆上がりした。短かったけど…。この曲はやっぱりアホみたいにモッシュが起こっていた時代のフェスで聞いてみたかった。確か「サムシング・ニュー」も神山さんのギターあり、イントロのみかな?すぐローディーさんに渡していた。
ところでお客さんは団扇やペンライトのために手が塞がっていて、ハンドクラップも拍手も動員のわりに鳴りが小さいなと感じた。仕方ないのかな。カンフーバットみたいに首から提げられてそれ自体も叩けるペンライトにしたら良いのでは?ペンライトはとても綺麗で、ダンベル型は2箇所光るので、揃って印刷ズレしてるみたいでおもしろかった。
「アンノウン」からの2曲は中央のステージでのパフォーマンスで、ステージ上に土俵の吊天井みたいな屋根があり、その下のスペースを四角く囲うように床から天井に向けて強い照明が出ていて、ホログラムで出来た檻のようで綺麗だった。あの屋根いつ消えたんかな…。屋根があったと思う。記憶がさだかでない。屋根じゃなくて昇降式の照明かもしれない。

・エゴと一途
・真っ直ぐ
ちょっとどうかと思うぐらい踊りの上手い人がおるなと思ったら濵田さんだった。濵田さん、絞殺がよく似合う。仮面とソファと、アカクラゲみたいなリボンを使った演出がおもしろかった。そうやな、触手系やな、あの曲。納得。ペンライトはユニット曲のときにはその参加メンバーの色に揃えるものらしく、色合わせが黄色と紫と桃色の取り合わせになるために場内がむやみに淫猥な雰囲気だったのもよかった。
桐山さんと神山さんの歌はすばらしかった。コンサート全編で、音程がやや不安定なくだりがあっても桐山さんと神山さんが歌うとギュッと正しい音に戻ってくる感じがあって、歌唱力がとにかく飛び抜けて安定してるんやなあと感じた。パフォーマンスだけでも女性らしいので、やや少女趣味な衣裳がちょっともったいない気もしたけれど、それはそれとしてかわいかったから良いと思う。そのロング丈の上っ張りを脱ぐと次の衣裳への早着替えができるというショー感も、見慣れていないので新鮮だった。ペンライトはみかん畑みたいだった。

・ハルカナレ
・Big Shot!!
・Mixed Juice
ここのパートは赤とベージュを基調にして全員デザイン違いというアイドルグループらしい衣裳で、パフォーマンスもアイドルグループっぽいものだった気がする。「Big Shot!!」は勝手にタオル回し曲だと思い込んでいたけど別に回さなかった。回さないのか。
「Mixed Juice」のあとにかなり長いトークパートがあり、ようけしゃべらはんなあと思った。もちろん楽曲よりもパーソナリティ重視というファンのかたもいるのだろうし、トークもアイドルには重要な要素なのだろうな。小瀧さんの一発芸がめちゃくちゃおもしろかった。毎公演違うことやってるのかな。小瀧さんの一発芸がなかったら、一番笑ったところが影アナとお散歩カートになるところだった。
あと、トークパートのはじまる際にきちんと「じゃあ一回座っていただいて…」というような感じで客に対して着席を促す声掛けがあり、ありがたかった。長いトークは演者にとっても息を整えられる時間なのかもしれないし、スタッフさんにとってもセットを戻したり何かしら帳尻を合わせたりしたうえでひと息つけるタイミングなのかもしれない。

・似てないふたり
・ぼくらしく
「似てないふたり」はメンバーによる演奏で、下手しもてから順にギター神山さん、キーボード重岡さん、タンバリン藤井さん、カホンとウインドチャイムとその他小物桐山さん、シェイカー小瀧さん、グロッケン中間さん、ギター濵田さん。
「ぼくらしく」はステージに腰を下ろして、藤井さんのギターと重岡さんのブルースハープで曲前半はシンプルに弾き語りというのも良かった。藤井さんの声と歌い回しが、やっぱりこの曲調に合っていてすごく良い。重岡さんのブルースハープも綺麗だった。ペンライトは赤と青なのでワイヤージレンマのリード線のようでもあり、角度によっては色が重なって、二藍のグラデーションのようでもあった。

・イキテヤレ
・Guilty
・パロディ
「Guilty」もボーナストラックなのでやらないのじゃないかなと思っていたから嬉しかった。ここらあたりのパートは確か白基調にゴールドの装飾の入ったゴージャスな衣裳を着ていて、ああこれはテレビでよく見たジャパニーズアイドルやなと思った。あんまりそういう恰好をしている姿を知らないので、アイドルなんやなと改めて思った。
・Anything goes
・アカンLOVE ~純情愛やで~
・ズンドコ パラダイス
パリピポアンセム
おもしろエアロビ風衣裳で、ダンベル型ペンライトを活かしておもしろエクササイズを客に強要するパート。中間さんを見ていて、動きになんとなく球団マスコットっぽさがあるなと思った。ドアラっぽい。コンサート中メンバーに手を振ったりとかそういうことはほぼしなかったのだけど、なぜか中間さんには振りやすかった。多分私は中間さんのことをグループのマスコットだと思ってる。
・愛情至上主義
・しあわせの花
・証拠
・POWER
「愛情至上主義」は聞けると思っていなかったのでとても嬉しかった。この曲はもともと短いからかフルコーラスだったと思う。このパートが一番、それこそサンボマスターを含み、私が普段よく聞く音楽と近く、ホームに近い感覚があった。ロックのライブで客がよくやる、腕を上げて振るような動きは、団扇を持つ高さについてのルールが定められていることを考えればもちろん後ろのお客さんにクソ迷惑であることが明らかなので、行儀良く聞かざるを得ないことはやや残念だった。
全編通してみれば、どちらかといえばパワーポップ、ポップロック寄りの内容で、もしかしたらアイドルらしいキラキラした楽曲のファンには物足らんのと違うかな?とも感じたけど、もしこれがアイドル文化になじみのない初心者への挨拶代わりのセットリストだったなら100点だと、アイドルになじみのない人間としては思った。

・We are WEST!!!!!!!
・ムーンライト
・むちゃくちゃなフォーム
アンコール1曲目はお散歩カートに驚きすぎてまったく記憶にない。あの合いの手とかどうなってたんやろ。何も聞いてない。
本編の最後かアンコールか、タイミングは忘れたけど、特効のメタリックのリボン、いわゆる銀テープというやつがドカンと発射されて落ちてきた。ああいうのはアリーナに発射するものと思っていたけど、スタンドにも大量に降ってきたのでびっくりした。真上からゆっくり時間をかけて、海中で身を捩るウミヘビのようにくねりつつ落ちてくるテープを見上げながら、甲子園の3塁側内野席で高橋周平が高々と打ち上げたファウルボールが真上から落ちてきて直撃したときのことを思い出し、「ファウルもこのぐらいのスピードで落ちてきてくれたら痛くないのに…」と思った。ファウルボールは凄い速さで落ちてくるのにスローモーションに見えて、これ素手で捕れんちゃう?と思っていたら逃げ遅れた。あれは痛かったな、捕り逃したし。硬球は当たると痛い。あの落ちてくるボールを見上げる感じとよく似ていた。そして階段通路に落ちたテープをすぐさま物凄い形相で駆け上がりながら回収していく客がいて笑ってしまった。あれでしょ、メルカリで売るんですよね。逆に終演後に、見えるようにテープを持って、退出していく人を眺めながら「…このへんの人はもうみんな取れたんかも…」と話し合っている人たちもいて、あ、手に入れられなかった人に分けてあげようとしているんだな、優しいなと思った。
「むちゃくちゃなフォーム」のアウトロがリピートされるなかメンバーの挨拶があって終演。公演時間は2時間15分ぐらい?追い出しのSEは聞きそびれた。

「ビジョンがあるからといってついビジョンを見てしまうのはもったいない」という界隈育ちなので、もったいないと思う気持ちを振り切ってビジョンを注視するのも難しく、全体を見るのに手いっぱいで、どこに誰がいるのかもあんまりよくわからないまま、個々のメンバーのパフォーマンスを楽しむところまではいかなかった。「担当(=いわゆる「推し」)」がいたら注目ポイントが絞りやすいのかな。
ただ座席に恵まれたので、いっせいに点されて揺れるペンライトの綺麗さとか、場内の一体感とかを後ろや真横から見られたことが良かった。
たまにうちの母を野球観戦に誘って、せっかくだからと張り切って前のほうのちょっといい席にも何度か連れていったあとで、「どのへんの席がよかった?次どこで見たい?」と聞いたら、「後ろのほうがいい」「どのぐらい盛り上がればいいかわからんし、なんか盛り上がるポイントがあったときは盛り上がるファン越しに見たい。ファンが盛り上がってるのを見たい」と言われて、え、そうなん?後ろの席のほうが安いと思って、遠慮で言うてるんかな?と思っていたのだけど、ああ、あれ、本心やったんやな、と思った。


終演後

ツアーパンフレットを買っておこうかなと思ったので会場を出てグッズ売場へ。途中、石垣を背景に、全長1メートルぐらいの、メンバーのフルネームを書いたボードを持って撮影している人がいて、これが「ネームボード」か、と思った。会場に持ち込みできないということは、記念撮影のためだけに作成して、どしゃ降りのなか持参されたのかな。フォントが勘亭流だった。千社札が巨大化したみたいな文化なのだろうか。すらっとした女性が、いかつい書体の巨大な他人の名前をかついで雨に濡れながら記念写真を撮るガッツ、クールジャパン感があるなと思った。
グッズ売場入場は時間帯指定の事前予約制なので、終演時間を予想して予約を取っていたのだけど、ライブハウスの物販と違い、終演直後のタイミングで買いに来る人がまずいないと見えて、お客さんはほぼいなかった。段ボールとビニールで出来た素朴な手作り雨よけカバーを被せたコードリーダーを構えてくれていたスタッフのかたに予約画面を呈示して入場し、まったく並ぶことなく購入できた。
グッズ購入のためのアプリというのもあって、そのアプリで商品をリストアップしてQRコードを作成してレジで呈示するとそのリスト通りに商品を用意してくれ、クレジットカードを登録しておけばその場で決済してくれる、という仕組みで、みんながそれを使っているのだったら、売場のかたも同じオペレーションでできるし使ったほうがええかなあ、と思って一応使ってみたけど、パンフレット1冊を現金で買うのには多分必要なかったな。たくさん買う人には便利だと思うし、もちろん売場のかたも楽だと思う。レジ袋はない。パンフレットはパッキングされていたので、折り畳み傘を入れていたびちゃびちゃのレジ袋に入れても大丈夫だった。多分。まだ開けていないので大丈夫じゃなかった可能性もある。2500円。
レジは10台もなかったように思う。コンサート規模にしてはグッズ売場が小さいなと思ったけど、今どきは事前のネット販売などで買う人が多くて、現地で買う人はあまりいないのかもしれない。
公園出口まで向かう道で、照明塔がある、と思って経路をはずれて覗いてみたら野球場があった。コンサートを見て思ったのは、アイドルの曲というのは大体どの曲も、広い空間でたくさんの人と体験を共有することを前提に作られてきたんだろうなということだった。今日聞いたような音楽を野球場のようにひらけた場所で聞いても楽しそうな気がした。グッズ売場近くの機材搬入口のあたりには、特効の機材車らしきものなどを含め、たくさんの大型車輌が停まっていて、これ全部このコンサートの関係車輛かな、ようさんの人が関わってんねやなと思った。関わるすべての人たちが葛藤も煩悶もすることなく心から誇れるエンターテインメントを目指してほしいと思った。




LIVE TOUR 2023 POWER
2023年3月18日~5月24日(全8会場31公演)
主催・制作:ヤング・コミュニケーション
運営:キョードー大阪(大阪公演)

むちゃくちゃなフォームの野球、または奇跡と未来の話

グループ・事務所の呼称および関連部分の表現を一部修正しました。[2023-10-23 追記]

WEST.に「むちゃくちゃなフォーム」という曲がある。メンバーの重岡さんが作詞・作曲したという。
新しいアルバムの収録曲リストが公開された時点で曲名だけを見て「野球の話か!?」と色めき立ったものの、正直なところ、本当に野球の話が来ると思っていたわけでもなかった。ミュージック・ビデオには伊藤淳史さんが出演するという。伊藤さんの経歴をすぐに確認した。野球経験があるとは書いていない。
どうせ野球とちゃうんやろな、「フォーム」か、何やろな、ボクシングとかもフォームっていうよな。むちゃくちゃにデンプシー・ロールする伊藤さんを想像してちょっと笑った。笑っているうちにYouTubeでミュージック・ビデオが公開された。野球や。

ミュージック・ビデオはスタジオで歌うメンバーの映像と、メンバーの出演しない野球ドラマのシーンを織り交ぜて構成されている。公開後すぐ、ドラマパート、特に後半の試合映像を、シークバーの左右スライドを駆使して何十回と繰り返し見ながら考えた。

1. どこの球場で撮影されたか
2. シチュエーション(カウント、塁状況)
3. 打席結果
4. 試合の背景
5. 総括


1. どこの球場で撮影されたか

フィクションの野球シーンを見た野球ファンが真っ先に気にするのは「どこの球場で撮影されたか」だ。理由はない。わかったところで行くわけでもない。ただ知りたいのだ。世界の全ての球場は野球ファンにとっては故郷なのだ。テレビで見かけた故郷の映像、気になりますよね。食い入るように見ますよね。帰省するわけでなくても。
有識者なら映像だけでわかるのだろうけど、私はアマチュア野球は高校野球すら見ないもので、映像だけを見てどこの球場かわかるような特殊能力は持ち合わせていない。俳優さんが撮影に参加しているのだから関東近郊だろう。ただしグラウンドと伊藤さんが同時に映るカットはないため、スタンド(観客席)だけが別撮りの可能性はある。野球ドラマではスタンドが別撮りはよくある。何ならスタンドだけスタジオで撮影し、背景を合成していることもある。エキストラの数にも限りがあるからどうせ引きで撮れないし、結局グラウンドと同時に撮らないんだから別撮りでもいいじゃん、制作側がそう考える気持ちはわかる。がっかりしないわけではないけど仕方がない。
このミュージック・ビデオの場合、映像から見て取れるのは次のような特徴だ。

・ナイター設備がない
・バックスクリーンが小さい
・スコアボードはあるが多分手動式
・カウント表示はランプ式
・内野が土、外野は見えづらいが多分芝
・ベンチはテント型
・外野からの観覧はできず、内野スタンドも仮設型

綺麗だが、総じて原初的で簡素なつくりで、公営球場などではなさそうだ。いくつか当たりをつけて調べると、わりにすぐそれらしい場所が見つかった。伊藤さんが陣取るスタンドの後方の風景も地図で確認できる地形と矛盾しない。試合とスタンドを別々に撮影した可能性は依然残るものの、合成までするとも思えず、少なくとも同じ場所で撮影されたことは間違いないだろうと、何となく少しほっとした。
なおバックスクリーンというのは野球ファンでも勘違いしている人の多い設備で、スコアボードのことではない。打席から見る投手のリリースポイントが客席などと被らないようにするために投手のずっと後方に設置された、濃色で無地の「バック(背後の)スクリーン(ついたて)」であり、つまりただの壁である。投手がボールを投げる瞬間にその向こうに白いシャツを着た人が何人か動いていると、打者からはどれがボールだか見間違えやすくなりますよね、そういうのを避けるために設置する。バックスクリーンより前に客を入れてはいけない。物を置いてもいけない。
このミュージック・ビデオでいえば、ヒッティングの瞬間に映っている、外野フェンスに上乗せされた、左上にスコアボード、右側にBSOカウントランプがついた、フェンスと同色の壁のことである。

コンサート利用などを見越してスタンド全周に客席を配置している球場では、当該部分の座席の色を単色にして客を入れないことでバックスクリーンに代えている。ぜんぜん関係ないけれど絶対にかなわない私の夢はバックスクリーンからプロ野球を見ることで、そのためなら緑や青の全身タイツ着用も辞さない構えです。


2. シチュエーション(カウント、塁状況)

映像のスコアボードは限界まで拡大しても読めず、イニングは不明。表裏も不明。点差も不明。BSOカウントランプはフードが目立っていて見づらいが、視認性の高い赤色のOのランプははっきりと見え、2アウトであることが確認できる。映像の流れからすれば初球打ちなので、BとSのランプはそもそも灯っていないと思われる。
二塁に走者がいる。三塁にはいない。一塁走者の有無は不明。得点シーンで打者走者(以下、仮に「だいきくん」とする)と喜び合っている選手が2人いるので、おそらく先にホームインした二塁走者と一塁走者なのだろうけど、ネクストバッターが混ざっている可能性もあるため断定はできない。また、すべての想定は一連のシーンがワンプレーによるものと仮定した場合の話である。だいきくんが左中間にかっ飛ばして出塁し、その後のバッターのタイムリーで生還した、という映像を繋げている場合は話が変わってくる。
一塁が映っていないかと、消音し、再生速度を0.25倍にして繰り返し再生していて、あることに気がついた。塁審が一人も映っていないのだ。
少年少女野球でも審判は通常4人制で、練習試合であれば場合によっては3人や2人で行うこともあるらしい。ヒッティングの瞬間に映る三塁線が全くの無人であることを踏まえると、少なくとも4人制ではなさそうだ。しかし走者二塁なら、一塁走者の有無にかかわらず3人制でも三塁塁審が二三塁間の前方に立つ。ヒッティングのシーンで必ず映る位置にいるはずなのだ。
私は3人制までしか見たことがないので、2人制なら二三塁間には立たないのだろうかと思って調べてみると、2人制でもやはり走者が二塁にいれば塁審の定位置は二三塁間らしい。残る選択肢は

・なんと球審のみの審判1人制
・フィクションなので端折られている
・実は誰かが何かをとんでもなくトチってる

の三択である。どちらにしろ審判のポジショニングから一塁走者の有無を類推することはできなかった。


(審判3人制で走者一、二塁の場合、三塁塁審が三塁を空けてショートの前に移動する。くら寿司スタジアム堺でのオリックス・バファローズvs阪神タイガースファーム公式戦、2022年5月21日)

ともあれ、ネクストバッターが走者に混じって派手に喜ぶのは、遅延行為を気にするアマチュア野球ではあまり好ましくない行為なのではないか、と思えば、やはり喜び合っている2人がいずれも走者だった、つまり二死一、二塁だったと仮定するのが自然かなと考えた。


3. 打席結果

全てワンプレーでの結果とすれば、だいきくんは打者走者として生還したことになる。この場合、打席結果の最有力候補はもちろんランニングホームラン(打点3)だ。
過去に「水曜日のダウンタウン」で「人生で1度もホームラン打ったことないプロ野球選手などいない説」という企画が放送された際に、インタビューに応じた金子千尋さん(オリックス・バファローズ投手/当時)が「柵越えですよね?」と確認していたことがふと思い出された。柵越えしないホームラン、つまりランニングホームランは、少年少女野球ではわりとよくあるものなのだ。ただしプロでは稀で、日本のプロ野球においても当然そこそこ珍しい打撃記録であり、2022年にはシーズン一軍公式戦全858試合で2本しか記録されなかった。
打者走者が得点したとしても、それがランニングホームランであるとは必ずしも断定できない。英俗語では守備チームのエラーが絡んだ結果のランニングホームランのことを「little league homer」、リトルリーグ(少年少女硬式野球)のホームランと呼ぶが、実際にはエラーが絡んだ場合はホームランとしては記録されないからだ。なので打球処理が映っていない映像からは、それが本当にランニングホームランであったかは判断できない。とはいえ、ボールが打ち返された瞬間にセンターとレフトがほとんど真横か斜めうしろに向かって走り出しているように見えることからしても、だいきくんの打球は左中間真っ二つでフェンスに到達するような完璧な長打コースのクリーンヒットであり、ランニングホームランの可能性は充分にある。
外野は遠くてあまり見えないが、内野の動きでひとつ気がつくのは二塁走者がヒッティングの瞬間までベースについていて、リードをいっさい取っていないことで、調べて初めて知ったのだけど、リトルリーグには「離塁制限」というルールがあり、打撃時には走者はベースについていなければいけないらしい。もうひとつはサードの守備位置で、やや前に守っているように見える。無死または一死で三塁走者がいればゴロでの生還を阻止するために前目に守ることも考えられるけど、二死なら普通にひとつのアウトを取ればよく、離塁制限がある分フォースアウトもしやすいはずなので、通常は前に守る必要はなく、定位置で守ったほうがアウトは取りやすい。そもそも少し前目が少年少女野球では定位置なのかもしれないけど、だいきくんがいかにも小柄で華奢な選手であるため、強い打球を打てないバッターであると相手チームが考えて、外野に抜ける打球はないという前提で、ボテボテのゴロを内野安打にしないよう守っていることがうかがえる。
これは空想の域を出ないけど、二死であることも考慮に入れれば相手チームはだいきくんの前のバッターを歩かせ、だいきくんで3アウト目を取るという選択をした可能性もある。もしそうなら外野手も、長打はないと踏んで、また走者が二塁にいることもあって少し前に守るのが自然であり、長打コースに弾き返すことさえできればランニングホームランが成立しやすい条件下だったと言える。


4. 試合の背景

見知らぬお兄さんと猛特訓を積んで試合に臨む設定のだいきくんは別にして、出演している選手はプレーを見ても実際に少年少女野球チームに所属する選手たちだと思う。
気になる点は、相手チームのバッテリー、特にキャッチャーがだいきくんよりもかなり大柄に見えることだ。ここで調べて初めて、リトルリーグが年齢別にチームを分けていることを知った。小5夏から中1夏を「メジャー」、小3夏からメジャーまでを「マイナー」、マイナー以前は「ティーボール」などとする区分があり、ティーボール区分で行われる試合ではピッチャーは投げず、バッターは軟式球よりもさらにやわらかい専用ボールをスタンドに載せておき、ピッチャーが投げるふりをするのに合わせてスタンドのボールを打つらしい。
とすると、劇中の季節が秋とすれば、だいきくんは最近野球を始めたか、またはこの夏にティーボール区分からマイナー区分に上がり、動くボールを打つ試合に出るチャンスが初めてやってきた小学3年生という設定なのではないか。そして、特にキャッチャー役の選手は小学4年生には見えない立派な体格なので、メジャー以上の年齢区分の選手で、本来なら対戦するはずのない顔合わせなのではないか。年齢の違うチームとの対戦は危険なので実際にそういうことがあるとはちょっと考えづらいけども、何らかの理由でメジャーチームとマイナーチームとの練習試合が組まれ、結果、年上の選手と対戦することになったという設定なのか、あるいは劇中のストーリーには関係なく、ただ撮影のために動員できるチームの都合などもあったのかもしれないし、単に実際にプレーをともなう撮影をスムーズに行うために、むしろ実力の安定した年長の選手たちを招集したのかもしれない。


5. 総括

いずれにせよ年上か、少なくとも自分より大柄なサウスポーの綺麗な真っ直ぐを、ミートの瞬間まで目をつぶらずにきちんとボールを見て捉えて左中間に見事に弾き返しただいきくんのバッティングは、当初はスイングもままならなかったことを思えば驚異的な進歩だ。多分何度か撮った素材を繋いではいるだろうし、もし吹替えやCGを使用しているとしても、ごく自然な映像と見える。筋立てとしても、映像としても、奇跡と呼んでさしつかえない出来だと思う。
少し検索してみたところ、公式アナウンスがないのでなんとも言えないけど、だいきくんは子役さんであるらしく、特技が野球ということもないようだ。ナイスバッティングだいきくん、素晴らしいヒットでした。
だいきくんも好演だけれども、キャッチャーも、だいきくんが本塁を踏むのをきちんと目の端で確認したうえで、画面からぎりぎり切れない位置で、おそらく捕球のためにではなく膝から崩れ落ちるという劇的な瞬間が映っており、それを画角におさめたカメラマンのファインプレーも光る。相手チームの選手たちの見せるこういったリアルなプレーもいいし、だいきくんのヒットに沸くチームメイトたちの表情もいい。もちろん伊藤さんの実直な雰囲気が生かされたストーリーも演技も、それを贅沢に使った構成もいい。なぜか塁審が一人も映っていないという不思議を除けば、このミュージック・ビデオにはフィクションとはいえ本当に美しい野球が映像として記録されている。
ここに出演している選手たちがいずれ大人になって、プロ野球選手になって、「10年ぐらい前のことですけど、ミュージック・ビデオに出たことがあるんですよ」なんていう話を聞かせてくれる未来もあるのかもしれない。このミュージック・ビデオがそのときにもまだ公開されていたら、未来の野球ファンがこの映像をそのとき初めて見るのかもしれない。それはなかなか楽しみな未来だなと思った。


補記

曲自体については、正直にいうと何度見ても野球のシーンになると映像に気を取られてしまい歌詞が頭に入ってこなくてまだ理解できていない。ミュージック・ビデオの内容ほど野球の話ではないことだけは何となくわかった。やっぱりボクシングの話である可能性もまだ捨て切れない。怒髪天に「情熱のストレート」という曲があって、私は野球の話だと思っているけど、あれは多分実際にはボクシングの話だ。そういうことはよくある。
あとは同じアルバムに収録される、神山さん作詞・作曲という「Strike a blow」はどうや、これは野球の話ちゃうか?ストライクやろ?と期待しているけど、まあ、多分違うやろうな。



※お断りするまでもないこととは思いますが、ロケ地についてのお尋ねには応じられません。何卒悪しからずご了承ください。