場外

para la calle

気温31度の屋外球場で野球観戦をするときの装備についての覚え書き


2015年からプロ野球のファーム(二軍)戦を観戦するようになった。

①年1回だけ
②阪神-オリックスかオリックス-阪神を
③できるだけ球場被りなしで

という自分ルールを決めているが、そうすると今年の行き先がどうも高知県の安芸しかないのだった。

1月、発表されたファーム日程表を眺めて、マジか…安芸か…マジか…そうかそうか安芸か…と唸った。どう調べても、うちから安芸までの片道で、東京-大阪間を往復できるぐらいの時間がかかる。
行くしかないのか、と煩悶していたところ、今年はフレッシュオールスターゲームが姫路で開催されることに気がついた。
これは福音である。もう姫路しかない。阪神の選手もオリックスの選手も出るんやから、まあええやろ。よっしゃ、フレッシュオールスターや、ファーム観戦10周年にふさわしいやんか。
と、ウキウキでフレッシュオールスターのチケットを取った。

交通アクセスがよいためかチケットはすぐ完売した。
フレッシュオールスターというのは、例年は前売で完売するようなものではない。
そうか、満員か。売店で何か買うにも大行列になる可能性が高い。普段は基本的に飲食物の持ち込みはしないけど、準備はしたほうがいいなと考えた。

前日までに準備万端ペットボトル飲料を3本凍らせてから気がついた。開催要項にも球場のウェブサイトにも書いていないけど、チケット発売要項のページだけに「ビン、カン、冷凍または750mlを超えるペットボトル、クーラーボックスの持ち込みはできません」と書いてある。
なんと。凍らせたペットボトルは持ち込みできない。
家から3時間近くかかるし、ある程度は溶けるのではないか。もしも手荷物検査で見咎められたら溶けるまで待ってから入場しよう。と決めて、結局全然止められることもなく入場したところ、場内のテントで冷凍したペットボトル飲料が売られていた。
「凍らせたらあかんのか~」と持ち込みを断念した真面目でかわいそうな人がいなかったことを祈るばかりである。



◎持ち物
・凍らせたペットボトル3本
・使い捨てクールウェットタオル
・クールネックリング
・帽子・サングラス
・日焼け止め
・ハンディファン
・手ぬぐい

私はめちゃくちゃ汗かきで、飲み物3本もどちらかというと足りないぐらいだけども、1本や2本なら現地でも買えるだろうと思って3本にした。重いし。
ところで汗はかいても拭かないほうがいい。気化熱で体温を下げるのに、拭いてしまったら熱がこもってしまう。いつも滝のような汗をかいて、たまに「拭いたほうがいいよ」と苦言を呈され、それでも頑として拭かずにびしょびしょのまま生きている私ぐらいの汗かきだと、下手に拭きさえしなければ、汗が引いたら体表面がまたさらさらになる。前世は濾過器だったに違いない。
いつも気化熱頼りなので、涼をとるグッズは扇子ぐらいしか持っていない。生まれてはじめてハンディファンやクールネックリングなどを買い、こんなん役に立つんかなあ、と訝りながら荷物を詰めた。

当初は開催場所のウインク球場の最寄り駅である手柄駅から15分弱歩くつもりでいたが、その何日か前の昼ひなかに10分歩いて、「これは無理やな」と徒歩は諦めた。
手柄駅のひと駅向こうの姫路駅から球場まで姫路市が無料シャトルバスを出してくれる。多少並んででもそっちのほうが安全だ。
シャトルバスは往路は48便、復路は18便しか出ないとのことで、帰りは手柄駅まで歩くしかないかもしれない。事前に球場から手柄駅までの道のりをストリートビューで確認したところ、とんでもなくプリミティブな佇まいの踏切付き駅舎の風景が出てきて、「これで来場者をさばけるのか?」と不安になった。
終電の時間を念入りに調べて紙に書き出し、荷物に入れた。



(JR姫路駅北側から姫路城を望む)


うちから電車ではるばる2時間半かけて姫路駅にたどりついたのが16時半である。
あんまり早く行きすぎてもな、暑いしな、と、試合前練習だとかそういうのは全捨てでやってきた。
球場に売店が出ているかどうかなどの告知がいっさいなかった。となると、多分まともなごはんは買えないだろう。カレーか、焼きそばか、まあそんなんを、20分とか並んで買うことになる。
仕方ない、ごはんも買っていこう、と事前に姫路駅周辺のグルメ情報を検索したところ、百貨店がある、商業施設がある、まあまあわりとなんでもある。
実際に姫路駅に降り立ってみたら、想像の100倍ぐらいの大都会だった。梅田や難波ほどじゃないが、天王寺ぐらいには都会である。姫路城が道の先に見える。
駅前の山陽百貨店の地下階をぐるっと一周し、おいしそうなお弁当を購入した。



どんどんやってくるシャトルバスに乗って17時すぎには球場に着き、フレッシュオールスターロゴのうちわ(600円)を記念に購入。
ウインク球場はきれいな球場だった。外野席で応援歌を歌いたい気持ちはあったが、今回は外野は芝生自由席しかないとのことだったので、場所取りで疲れたくなくて内野指定席を買った。前方席にこだわりがないのでバックネット裏後方の席をとったところ、屋根があり、直射日光はあたらない。座席の前後左右の間隔も広く、風も吹き、意外とそんなに暑くない。



(柿安ダイニングの「肉の老舗柿安 三種の牛づくし弁当」1,491円(税込)。私が道中に袋を傾けたせいで肉が寄っている。激旨。また食べたい)



(キチョダモ)


グラウンドを挟んで真向かいの、レフトスタンドの奥のフェンスのさらに向こう側の木立のすきまに、こんもりと、建物2階ぐらいの高さの盛り土があり、その上に無賃でグラウンドを覗き見ている人が十数人いるのが見える。子供ならともかく大の大人がそういうことをするのはいかがなものかとは感じたが、原初的な野球観戦風景のようにも思えた。
前列に、とある球団の一軍コーチと同じ苗字のレプリカユニフォームを着た人が3人並んでいる。椅子に背もたれがあって背番号は見えない。
名投手だったし、強火のファンかな?と思ったが、スタメン発表を見て、その苗字の選手が出場していることに気がついた。そうか、家族か。その選手はヒットを1本打って交代した。



オールスターというのはスタンドがカラフルだ。旗が揺れ、傘が揺れ、のべつ歓声が響いている。
ほとんど知らない選手ばかりだったけど、どの選手にもたくさんのファンがいて、大きな声援が飛んでいた。

メントール刺激に弱いので、これはどうかなあ、と思いながら買った使い捨てクールウェットタオルを首にかけると、案の定、冷たいを通り越して激痛が走った。マツモトキヨシで売っていた「-5度冷感タオル」というものである。
ハッカなどの、冷たいような気分になるグッズは、実際には体温が下がっていないのに頭が「涼しい」と誤認を起こしているだけで、あまり頼ると逆に熱中症の危険が高まってよくない。というのは知っているので、一瞬使っただけでもうひっこめた。首が痛い。7本入りを買って5本も持ってきたのに全然使えない。これは事前に試してみればよかった。



(笹ギータこと笹川吉康(ソフトバンク))


(3回裏、先制のソロホームランを放ってダイヤモンドを一周する石上泰輝(DeNA))


凍ったペットボトルは念のためにすべて個別に新聞紙でくるんで保冷バッグに入れて持参したため、球場にたどりついて開封したところまだカッチンコッチンだった。試合がはじまって1時間経っても全部は溶けずろくに飲めない。
ペットボトルを凍らせたことがなかったので、こんなに溶けにくいものとは思わなかった。電車で2時間半の道のりだからと地元の駅で買った普通のペットボトルの麦茶から飲み、カッチンコッチンのペットボトルは保冷剤代わりに頸動脈を冷やすよう首にあてたり手でつつんで持ったりして溶かした。結局これが一番役に立ち、体温を下げられたので、クールネックリングもハンディファンも使わなかった。
「冷凍できます」というマークのある商品を選んで買ったのだが、塩はちみつレモンとかそういう清涼飲料水系のものしかなかったので、こんなん3本も飲んでいいんかなあというのは気になった。毎日のことじゃないからいいかもしれないけど、お茶や水の冷凍ペットボトル商品の販路をもうちょっと拡大してほしい。

外野芝生席からの応援歌がよく聞こえる。イースタン側からは往年の選手の懐かしい応援歌が響く。ウエスタン側からは中日のチャンステーマに乗せて「読売倒せ!ドラゴンズ!」という雄たけびが届く。



(真正面に満月が出た)


姫路はそこまで海に近くないはずだが、山鳥なのか、サギかカワウぐらいに大きな白っぽい鳥が何度か球場の空を横切った。
鳥は妙に多く、薄暮の中、ヨタヨタとまぎれこんだ小鳥が内野スタンドの低いところをグルグルしていたときには、うしろの席の、腕に刺青を入れている、いかにもやんちゃな青年グループの1人が、
「ヒバリ飛んでる」
と言った。

試合は3回にDeNA石上のホームランで先制したイースタンがその後も得点を重ねて7-0でウエスタンをくだし、なんとなく客がみんな「最優秀選手賞(MVP)は勝ったチームから、優秀選手賞2名は勝ったチームと負けたチームから1人ずつ」と思っていたのに反して表彰選手3人ともイースタンから出てしまうという、ウエスタン応援勢には見どころの少ない試合になった。
阪神の福島の足の速さには度肝を抜かれた。同じく阪神の捕手である中川勇斗の捕球音のずば抜けた鳴りのよさも印象に残った。



(おそろしく足の速い福島圭音(阪神)。センター前ヒットで出塁し、このあと二盗を決める)


試合は2時間半弱で終わったので、心配していたように終電に乗れないということもなさそうだし、表彰式を全部見てからゆっくり球場を出たところ、スタッフが「シャトルバスには~!もう乗れません~!駅まで~!歩いてくださ~い!」とデカい声で注意喚起しており、ああ、やっぱりそうなるんや、と、手柄駅まで歩いた。
シャトルバスをあきらめて徒歩で帰ると決めた第一陣ぐらいに入ったのか、あんなに球場内にいた人は今どうしてるのかと心配になるほど、歩いて駅に向かう人は少なかった。
駅までの道には何もなかった。川沿いの暗がりを行くと茂みのなかで虫がさかんに鳴いていた。新大宮駅から奈良のネバーランド(ライブハウス)までの道のりの感じにちょっと似てるなと思った。
ストリートビューで見た、とんでもなくプリミティブな駅舎にたどりつき、ほどなく来た普通電車で姫路までひと駅戻り、精算のためにいったん改札を出てもう一度飲み物を買い、戻って特急に乗った。



(バス停みたいな手柄駅)


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