場外

para la calle

鼻血を出したことがない

鼻血を出したことがない。
父も母も鼻血を出したことがない。正確にいえば、父は鼻を強打しての鼻血は一度だけ出したことがあるそうだ。普段の生活でタラッと、みたいな鼻血は家族のだれも経験がない。両親以外で健在の唯一の直系尊属であるところの祖母(98歳)にも聞いてみたが、やはり「ほんなん出したことあれへん」とのことである。
鼻血が出ないということ自体は別にめずらしくもなんともなく、なんで出ないかというと鼻の粘膜が強いからではないか、ということらしいが、粘膜の強さは自分ではよくわからない。皮膚はよわい。子供のころ、軽くぶつけるだけですぐに皮膚がべべべべとめくれるので、「皮むけ」と呼ばれていた。ちょっとした妖怪の呼び名である。謎の痣と謎の擦過傷にまみれて生きている。特別丈夫ということはない。
20代のころ、会社の先輩が鼻血を出して、昼休憩時に「ひさびさに出たよぉ」と鼻をおさえていたので、「鼻血って、はなみずと間違えたりせえへんの?はなみず出てきたわって思ったら鼻血やったりするの」と聞いてみたところ、「鼻の奥で鉄のにおいがするからわかるんだよ」とやさしく教えてくれ、そうなのか、鉄のにおいがするのか、と感銘を受けた。経験したことのないことをそういった平易な言葉で教えてもらうと、味わい深くて、いやに感動するものである。