場外

para la calle

北海道で野生動物の研究をしている人と、ホノルルでダットサンに乗っている人

年に一、二度、同じ苗字の他人宛のメールが届く。
一人目は北海道にいて、野生動物の何かしらの研究をしているらしい。任期付きの職員として働いているようで、どこそこの庁でこういった案件がありますが次にどうですか、という、知人らしき人からの口利きのメールであったり、あるいは単に映画館の予約完了メールであったりが届く。
見ず知らずの、千キロ以上も離れたところに住んでいる、同姓であるだけの赤の他人の、フルネームと、電話番号と、職場と、映画の好みまで知ってしまい、あなた、人にメールアドレスを教えるときだとか、予約サイトに入力するときだとか、もうすこし気をつけたほうがいいですよ、と、遠く離れた大阪から思うものの、肝腎の正解のメールアドレスがわからず、わざわざ電話をかけるのも、知人らしき人や職場に連絡するのもはばかられるので、いつもそのまま放置する。
口利きのメールには、研究対象の動物の名前が列挙してあった。聞いたこともない独立行政法人の名称と、北海道の最低賃金は一体いくらなのと聞きたくなるような額の時給が書いてある。研究対象の動物を画像検索し、雪原でこれを追っている人を想像する。
二人目はハワイのホノルルにいて、ダットサンの修理受付のメールであるとか、同地のショッピングセンターであるカハラ・モールのダイレクトメールであるとか、献血の予約完了メールであるとか、相続についての弁護士からの連絡メールが、どれも英語で届く。カハラ・モールにだけ停止の連絡をしたが、こちらも正解のメールアドレスはわからず、あとは相続の件を含めてもさしてクリティカルな連絡でもない様子なので放置してある。同じ苗字の人が、ハワイで年代物のダットサンをメンテナンスしながら乗り回し、ショッピングを楽しみ、相続をし、たまに献血をしたりするのだなと考える。
寒い町と暑い町に住む、自分と同じ苗字の人が、同じ人間のメールアドレスを度々間違って入力して生活していることを思うと、なんとなく愉快な気持ちになる。いずれ二人を引き合わせてやりたい。ダットサンの調子はどうですか。映画はちゃんと見られましたか。