場外

para la calle

大阪くらしの今昔館|企画展「天神祭と都市の彩り」

前々から一度行ってみようと思っていた大阪くらしの今昔館に行ってきた。企画展よりは常設展示目当てである。

とにかく外国人旅行客が多い。来場者の8割方が多分旅行客だった。1割5分が、子供をどこかに連れていかなければならず追い詰められた夏休みのお母さんと子供、最後に残る5分がヒマなシニア連と物好きのソロ客といった感じ。チケットカウンター前に立つ案内スタッフさんも、わらわらわらわら来る客が何語をしゃべる人なのか見極めながら案内をしてくれる。
私はスペイン人には「誰かに似てると思ったら子供の頃の私にそっくり」と言われ、ベトナムではベトナム人からも日本人からもベトナム人と間違われ、あまり突出した特徴なくその場になじんでしまう人生を送ってきたので(ただししゃべった瞬間に「大阪の方ですか」と言われる。ですますでしゃべっていても)、案内スタッフさんが私のようすを伺いながら「この人はどこの人…?」と考えているなあ、という空気を感じたのだが、列に並びながら財布から千円出したところ、ス…ッと寄ってきてくれて料金の案内表の日本語面を見せてくれた。列に並んでいる間にお金を用意するのは日本あるあるなのかもしれない。

常設展示のフロアは概ね2階にわかれており、上のフロアは1830年代(天保年間)の大阪の町屋を、やや手狭な体育館ぐらいのスペースに実物大で再現してある。着物体験というのもあって、30分1000円で適当な着物を貸してくれて町並みをうろうろできるのだが、これは特にアジア系の観光客に大人気。
町屋の一部は上がれるようになっていて、着物女子が上がり框に腰掛けるなどしてばんばん自撮りをしていた。いや~とにかく外国人ばっかりやな~と、私も見てまわりたいのでいろいろ踏み込んではみるものの、自撮りの邪魔になるなあと思い、時間をかけて人がいないタイミングを狙って町屋に上がり込んでみるのだが、人がいないと思ったら薄暗い畳の間(ま)で多分疲れたアジア系のお父さんがひとり腰を下ろして無表情でくつろいでいて、笑い飯の奈良県立歴史民俗博物館の動く人形のようになっていたりして、遠慮をするときりがないので構わずズカズカ上がっていって和箪笥を勝手に開けたりした。振り返ったらお父さんが、勝手に箪笥を開けたり物入の戸を開けようとしたりしている私を黙って見ている。RPGの勇者気分になった。箪笥や物入は、さわってはいけないものにはその旨の表示があるし、がっちり留めてあって開けられないところもたくさんあるので、開けられるものに関しては開けていけないということはないと思う。私が前を横切って濡れ縁に出て雪隠と五右衛門風呂を確認してまた前を横切ってもずーっと黙って座っていたお父さん、お疲れさまです。
井戸を開けたり水屋を開けたりへっついの鍋を開けたりぐらいはできるものの、あんまりいろいろさわって動かせるわけでもないなか、呉服屋の戸枠に「スタッフ以外はさわらないでください」というような注意書きがあり、戸の構造についての説明書きがあり、読めば戸を横スライドではなく縦スライドで天井方向の戸袋にしまい込む「すり上げ戸」という戸であると書いてある。どういうことか、と思い、流暢な韓国語で案内していたガイドさんに日本語で声をかけて「ここの戸はこの上に入ってるってことですか?」と聞くと、「そうです、そうです」と朗々と仕組みを説明してくれ、上げ下げを実践してみせてくれた。昼用の戸と夜用の戸の2枚が間口の上部の壁のなかにシャッターのように格納されていて、昼は格子戸、夜は普通の木戸を下ろしてくるそうで、普通の木戸のほうには横スライドのくぐり戸がついているので、夜間は戸の上げ下げをせずに小さなくぐり戸から出入りしたとのこと。これは見せてもらったほうがよく理解できたので、ガイドさんに声をかけてよかった。
時季にあわせて効果音や空模様が変わるらしく、1時間ほどいた間に天神囃子、夕立、雷の音からの夕焼け、夜空になって花火、というのが三まわしぐらい見られた。
一番良いなと思ったのは町屋の裏の裏長屋で、私はもともと長屋の構造が好きなので実物大長屋の展示などは大体どこに行っても端から端まで眺めまわしてそこに住んでいる自分を想像してうっとりするのだけど、ここの長屋もよかった。ウェブサイトを見ると、義太夫の師匠が住んでいるだとかの設定のときもあるようだけど、今はあまり凝った展示はしていなくて、一番端は空き家(表に「かしや」と貼り紙がしてある)になっていた。畳も上げられてどこかに行ってしまっていたけど、あれは店子が金を払わないと畳を入れてもらえないんだろうか?

下のフロアは主にジオラマの展示となっていて、上のフロアの充実ぶりと比べると、うーん、いや、ジオラマも大作なんだけど、私は目が悪くてケースのなかのジオラマというのはあんまり見えないので、ここはそんなにじっくり見なかった。外国人旅行客は何だと思って団地の模型とか見てるんだろうな、と思った。

企画展「天神祭と都市の彩り」は、まあ300円だな、という感じで、そんなにたくさん展示があるわけではなく、でも天神祭の展示だったらこのあいだ中之島美術館で見た生田花朝の天神祭の絵なんかもあるかな?と思ったけど、なかった。師匠の菅楯彦の絵はあった。
全体的には、駅から直結で800円(常設展のみなら500円)で楽しめて、飛び交う言語が外国語ばかりなのもおもしろく、なかなかいいなと思った。ミュージアムショップがもはやミュージアムショップではなく旅行者向けのお土産物屋で、寿司の絵の謎Tシャツとか柴犬のキーホルダーとかをぼんぼん売ってるのもよかった。
9月からは次の企画展「重岡良子花鳥画展」というのがはじまるらしく、花鳥画は好きなのでヒマがあればまた行きたい。




(町屋の土間から。外にいるのはガイドさんと、なつかしさのあまりガイドさんを引き留めて話し込む日本人のマダム)



水屋(みずや)…大阪ではおおむね食器棚のこと。
へっつい…かまどのこと。

企画展「天神祭と都市の彩り」
https://www.osaka-angenet.jp/konjyakukan/exhibition_special/260000673
2023年7月8日~9月3日 大阪くらしの今昔館
主催:大阪市立住まいのミュージアム(大阪くらしの今昔館)
観覧料:一般300円(常設展+企画展800円)