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para la calle

ディセンデンツみたいな小説家になりたい/津村記久子講演会 覚書

プロ野球を見るようになって以降本を読むことが減ったなかで、それでもちょいちょい読みつづけているのが津村さんの本で、講演会があるというので行ってきた。近刊の「水車小屋のネネ」にまつわる話を中心に、事前に参加者から募った質問に答えてくれる、質疑応答形式の講演会。
拍手されて出てきた津村さんが、自らも小さく拍手しながら背を丸めてこそーっと出てきはったのが愉快でまず笑いが起きた。終始「そのへんの人をつかまえて連れてきたみたいな受け答えですみません」と謙遜し、実際そのへんの街ロケでたまにおる、なんかしらんけど受け答えがおもしろくて撮れ高の多い通行人みたいなフランクさでたくさんの質問に答えてくれた。

固有名詞がたくさん出てきて、聞き取れなかった人が結構いたのではないかと思うので、固有名詞が出たところを中心に、印象的な質疑応答をいくつか。逐語的書き起こしではないことをお断りしておきます。


2023年11月25日 大阪市立中央図書館
第26回大阪市図書館フェスティバル
津村記久子講演会 覚書

Q. 作品のなかにたくさん音楽が出てきますが、お気に入りの音楽は?
作曲家でいえばシューベルトが好きで。あとディセンデンツ(DESCENDENTS)が好きなんですよ。あ、このTシャツ(と、カーディガンの下に着ているTシャツがディセンデンツのバンドTシャツであることを見せてくれる)。
先月のディセンデンツのライブ(*1)見に行きました。転びました。自分はこんなに簡単に転ぶものなのかと思った。

Q. 執筆中に音楽は聞きますか?最近はどういう音楽を聞かれているのでしょうか、以前インタビューでミッドウエスト・エモの話をされていましたが。
この会場でミッドウエスト・エモ*2)の話に興味があるのは質問者のかたと私だけなんじゃないですかね。書いてるときは聞かないですね。音楽を聞いたら音楽を聞いてしまうので。小説より音楽が好きなので、音楽はごほうびとして。
書いているときは環境音のBGM、雨の音とかを聞いたり、あとはテレビをつけていたりします。「ゲームセンターCX」とか、「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」とか。「ゲームセンターCX」を血眼になって録画しています。
最近は9月にオソ・オソとかオリガミ・エンジェルとかが出てたライブ(*3)に行きました。あと11月3日のRAZORS EDGE主宰のイベント。お客さんがいっぱいで会場に入れないぐらい(*4)で、自分の好きなものがこんなに人気でよかったなあ!って思いました。

Q. 普段はどんな本を読んでいますか?
期待とはズレた答えになると思うんですけど、小説家になると献本っていうのが送られてくるんですよね。で、一か八か、「好きそう」というだけで送ってくる出版社があるんですよ。そういうのがね、意外と刺さる。それで読んだのがケヴィン・ウィルソンの「地球の中心までトンネルを掘る」という本。突然送られてきた。
普段の読書は楽しさを求めて読みますね。ミステリーをよく読みます。本屋さんには、すみません、あまり行きません。自分の本の行方を考えたらしんどくなるので…(知人の作家で)同じようにしんどくなる人が、それでも本屋に行くそうで、私は「やめなはれ」っていうんですけども。

Q. 好きな作家は?
そういうわけで今はケヴィン・ウィルソンです。今年読んでおもしろかったのはジャニス・ハレットの「ポピーのためにできること」。

Q. インスピレーションを受けられる場所を教えてください。特に大阪で!
船場センタービルです(即答)。できたら船場センタービルのお店一軒一軒について書いた小説とか読みたいですよね。私は書くのいやですけど。船場センタービルはひとつの宇宙なんですよ。
大阪駅前ビルも好きです。駅前ビルは会社員のときにたくさん行けたので、目をつぶってでも歩ける。

Q. 最近ハマっているものはありますか?
カクたこという、卵焼き器でたこ焼き生地を焼いたもの。タコは入れなくていいので。簡単で、安くて、めっちゃ作ってて、太りました。
人でいうとツール・ド・フランスの去年・今年のチャンピオンの(ヨナス・)ヴィンゲゴー。

Q. 取材やプライベートの旅行で行った、印象に残っている場所は?
「ディス・イズ・ザ・デイ」の取材のときに行った、鹿児島の白波スタジアム。バックスタンドかな?スタンドの向こうに桜島が見えるんです。煙が出てたんですよ、そしたら(近くの席の)女の人が「すぐ噴火すんのよ」っていった、それがよかった。鹿児島は黒豚のしゃぶしゃぶもおいしかった。(おいしさへの感動を持て余して)給仕してくれる人の手を握りたくなったぐらい。そんなにおいしいのに、隣のテーブルは家族のトラブルのことをしゃべってるんですよ。あんなにおいしいものを鹿児島の人はそんな話をしながら食べられる!

Q. 最近おもしろかったことは何ですか?
J2の最終節!磐田と清水の順位の入れ替え…(場内の反応のうすさを見て)すみません(一人で盛り上がって、というように謝る)。

Q. 今後どういう小説家になりたいですか?
ケヴィン・ウィルソン…年下なんですよ、困りますよね。ああ、この(ディセンデンツのTシャツを指して)こういう小説家になりたいです。ディセンデンツみたいな小説家。

※2023年12月21日付で配信された大阪市立図書館メールマガジン第120号にも講演会内容の抜粋書き起こしが掲載されています。


あといろいろおもしろかった話はあるのだけど、誤解のないように書くのはむずかしいので全部は書かない。上記はメモから起こしたもので、できるだけ思い出しながら書いたけれども、はしょっている部分も多いし、津村さんの意図とちがう部分があるかもしれないことをご了承ください。固有名詞が覚えられなかった人向けのメモだと思ってください。

会場の表でスタンダードブックストアによる物販があり、そこで津村さんの本を買うと講演会後にサインをしてくれる、とのことなので、まだ買っていなかった「サキの忘れ物」の文庫本を買ってサイン会に参加した。
本当は持参した「水車小屋のネネ」にサインしてほしかったのだけど、そして「水車小屋のネネ」も売っていたので、「サキの忘れ物」を買ったうえで手持ちの「水車小屋のネネ」にお願いすることもできそうな気もしたのだけど、一応確認したところ「購入した本だけです」とのことだったので「サキの忘れ物」にお願いした。
サイン会参加は70人ぐらいだったのかな、津村さんは最近新型コロナウイルスに感染したとのことで、講演会内でも雑談のながれで「あれはいやなものですよ」「本当にいや。インフルに2回かかるほうがまし」とおっしゃっていて、津村さん自身もサイン会参加者も不織布マスクをきちんと着用したうえで、ひとりひとりにかなり時間をかけて宛名を入れてイラストを入れてサインを書いてくれはったので、書いてもらっている間に話しかけることもできて、だから待機時間は長かったのだけども、みんな黙って椅子に座って買った本をじっくり読みながら順番を待っているのがおもしろかった。

サインを書いていただいているとき、これだけは!と思って、「ディス・イズ・ザ・デイ」がすごくおもしろかったこと、自分はサッカーはわからないけど野球ファンだから、昇格・降格の悲喜こもごもとかはわからなくても選手の移籍のことなどが本当にしみた、よかったです、ということを何とか伝えた。津村さんは私にも、どこのファンなのかとか、じゃあ今年は特に楽しかったんじゃないですか?等々フランクに返してくださった。
本当に、サインする間ひとりひとりとじっくり「会話」をしていて、ああ、こういうことができるから、あんなにいろんな話が書けるんやな、と思った。
もうちょっと小説のネタになりそうな話をすればよかった。でも多分どうでもいいような話でも、津村さんには光って見えるものとかもあったりして、津村さんが書けばおもしろい話になるんやろうな、とも思った。





(休憩中のらくがき、ステージに投影されていたスライドの絵を見ながら描きうつしたヨウム)



第26回大阪市図書館フェスティバル 津村記久子講演会
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jouxux8hn-510#_510
2023年11月25日 大阪市立中央図書館

*1:多分来日ツアー「Milo Goes To Japan 2023」のこと

*2:シカゴなどアメリカ中西部(=ミッドウエスト)を中心に1990年代に興ったインディー・ロックのジャンルの一種のこと。代表的なバンドがゲット・アップ・キッズなど、らしい

*3:多分「The Hotelier / Oso Oso / Prince Daddy & The Hyena / Origami Angel Japan Tour 2023」のこと

*4:多分「STORMY DUDES FESTA 2023」のこと。サーキットライブなので、会場ごとの入場規制のことと思われる