場外

para la calle

笑うのをやめたら泣いてしまいそうだった/舞台「盗聴」感想

はじめに

最初は本編についてのネタバレを含む感想を書いたのですが、思うところがありネタバレ部分をすべて削除しました。以下、本筋以外についての感想しかありません

[2023-2-2 追記]
2か月前に「これはあんまりよくないかな」と思って削除した感想が下書きに残っていたので読み返し、まあ、そこまでおかしな感想でもないんかなあ、と思ったので、もともとの文章の一部を書き直して「本編についての感想」のところに再度記載しました。


公演について

チケットについて

・前日10時予約開始の当日券予約システムで、当日券は取れなかったもののキャンセル待ち券を取ることができ、キャンセル待ち番号1桁後半8番(2023-1-8 追記)で提示されたのがA席。「一部の演出が見えづらい可能性がある」との断りがあった上で了承して購入。8000円(S席は9000円)

・キャンセル待ちでは入場できない可能性もあるので、念のため当日朝にも当日券予約に再チャレンジしたところ、翌日の当日券が確保できたため、「今日がダメでも明日があるさ」と楽な気分で現地入り

劇場について

サンケイホールブリーゼ。10年以上前にヨーロッパ企画を2回ぐらい見に来た。ホワイエが相変わらずピカピカに白い。ブリーゼブリーゼ全フロアの案内ビジョンがブルースクリーンを出していて、その上から「調整中」の貼り紙を貼られており、各フロアもひっそりとしていて、ダメな頃のピエリ守山感があった。何でそんな寂れるんですかね


本編についての感想

・緞帳なしで客電が落ちて舞台が明るくなって開演なのに、板付きだったのが全然見えてなくて、えっいつからおった?と初っ端から普通にびっくりした。最近天王寺動物園行ったんですけど、夜行性動物の館、何にも見えなかったんですよね。暗くても見える目があればな、暗転も楽しめるんやろな

プロジェクションマッピング的なビジュアルライティングで場景を表現していて、そうか、これが出来れば書割を都度変えなくて済むのか、こういう技術もどんどん進んでいるのだろうなと思った

・音を立てずにセット変えてるスタッフすごい。どうなってるんやろう?舞台裏の取材映像が見たい

・自分なら回転するセットで演技するのも怖いし、立ち位置を間違ったり、突き飛ばされ方が足りなかったりして盆に乗れなかったらどうしよう、回転する前に不自然に這いずって盆に乗らないと…などと考えながら見ていた。多分回転舞台を初めて見たと思う。今まで見たやつはシットコム的なものが多かったので

・内容についての感想を言葉にすることは諦めた。ただこの作品を見られたことは本当に良かったと思っている

・本編終了後、演者が出てきてこんなに素に戻ってしゃべって挨拶するものなんや!ということに驚いた。並んでお辞儀と客演の紹介と物販の告知ぐらいしか見たことがない(*1

当初書いた感想の一部[2023-2-2 追記]

・すでに鑑賞した人が「何も前情報を入れずに見たほうがいい」と書いていたのを真に受けて、公式サイトも見ずに見に行き、なんとなく根拠もなくコメディだと思い込んでいたので、びっくりした。あとから見たら公式サイトにちゃんと「ミステリー」って書いてある

・さすがにミステリ(ミステリー)と知って見ていたら、カレイさんが双子だと聞いた時点でエノキダが関わっている部分の方向性がほぼ見通せてしまうわけで、その意味では、ジャンルすら把握していないという稀な状態で見に行けたことはラッキーだった。しかしそれにしたって、厳密なフーダニットとかではないから別によいにしてもこんなに堂々と双子ネタを扱われてしまうと、ミステリと知って見ていたら逆に「これはミスリーディングだよな?」と思う人も多いのではないか

・結末については、私は創作物における、環境が人格形成のすべてをコントロールしてしまったかのような、原因と帰結しかないような人物造形に対して、それは社会的存在としての人間に対する冒涜だという怒りに近い気持ちをもともと持っていて、深淵を覗いたから深淵に覗かれたという単純な帰趨は安易ではないか?と多分思っているので、その点に対する苛立ちがまずあった。それから、小説など文字だけで構成されるものではない演劇という装置が物語にどういうふうに作用するものなのかを、演劇についての素養がないからよくわかっていないので、エノキダの「普通の弱さ」を主演の濵田さんが誠実に説得力をもって演じていると思ったからこそ、謎解き噺としてのクリーンな着地が優先されたような気がしてやるせなかったということもいえる。私の感覚ではあの決着はオチとしてきれいすぎるソフトランディングであり、それぞれの主要人物に肩入れできるだけのストーリーと好演があったからこそ跳躍なくただ物語の一要素として消費されるために人物が配置されているにすぎなかったように感じて、そこに不満があるのだと思う。
逆にいえば、理由があって配役されていて物語の要素としてきちんと嵌って演じられているからこそあの結末で風呂敷がきれいに畳まれるのだと、人によっては受容できるのかもしれない。うまく説明できないけど、なんとなくダラダラいえばそういう感じです

・これは落語における「どこまでリアルに演じるか問題」と、ミステリにおける「人物がコマ扱い問題」のたちの悪いマッシュアップみたいなもので、落とし噺として受け取るならもっとこのぐらい、リアルな話として受け取るならもっとこのぐらい…みたいなお芝居の分水嶺を理解できていれば、つまり演劇というジャンル、ミステリというジャンルの装置としての働きを私が把握していれば、もっとシンプルにエンターテインメントとして楽しめたのではないか、という、いずれにせよ受け手としての私の側の理解と整理の問題である

・「盗聴」というそっけないタイトルなのが良かった。タイトルのようにシンプルに受け取ればよいのかもしれなかった。筋立てはおもしろかったです。それがすべてなような気もする

・途中ムツミちゃんが、ある人物がハケるときに落としていった何かをさりげなく拾ってポケットに仕舞ったので、話に関係があるのかなと思ったけど多分普通に衣裳か何かの一部が落ちたのを回収しただけだった。結局何もなかったな、と、あとから思い出してちょっと笑った(*2


本編以外についての感想

・女子しかおれへん。はー、すごい

・画面上でしか見たことのない、ぬいぐるみやアクリルスタンドなどのグッズをかざして写真を撮っている人をそこかしこでたくさん見かけ、おお、あれが実物…と思った。めっちゃ写真撮るものなんですね。アクリルスタンド、なるほどこういうふうに使うものなんか、おうちに飾るものじゃないんや。こうやって使うものなら購入のために争奪戦する気持ちはわかるなと思った。みんなすごく楽しそうだった

・「本日の催物」パネルを撮影する行列があって驚いた。列になるなら5枚ぐらい並べてあげたらいいのにね


(せっかくなので並んで撮った。かわいい)

パンフレットについて

・2000円。製本が豪華。表紙型押し、カッティング加工。写真集みたい。紙が厚い。硬くて読みにくい。ある種コレクターズアイテムなんかな?アイドルの人が主演だからなのか、他の演劇でもこんなものなのかどっちだろう?

・出役と脚本・演出家だけでなく、転換の工夫とか、ビジョンとの組み合わせとか舞台美術などについてのページもあるとよかったな。映画のパンフレットだとそういうのあるじゃないですか(とはいえ映画もほとんど見ない)。完パケから公開までに間がある映画に比べると、パンフの締切以降の演出変更などのリスクを考えたらそんないろいろ書けないのかも

映像化等についての所感

演劇は、10年以上前のある時期数年間にヨーロッパ企画テノヒラサイズを年に各1、2回、歌舞伎を年2、3回見に行っていたことがある以外は無縁で、いずれの劇団も結構たくさんの公演が映像化されているので、今どきはほとんどの演劇は映像化されるものなのだと思っていたら全然そんなこともないらしく、この作品も映像化予定がないとのことで、もったいないな、もっとたくさんの人に見てもらえたらいいのにと思った。もし映像化されたら買いますね。せめて配信があればいいのにね。目が悪いと本当に見えないんです。パンフレットに「何度か見に来てくれる方はぜひ表情も見てほしい」というようなことが書かれていたけど、表情なんて見えない。まあ視力以前に舞台の3分の1見えなかったんですけど


その他、どうしても書き残しておきたいこと


(うろ覚え記憶スケッチ、座席からの見え方)

・ブリーゼのバルコニー席はカス!!!

・上手ほぼ見えない。笑った。笑うのをやめたら泣いてしまいそうだった。自分で選べたら絶対に買わないので、その意味ではこれもすごく得難い良い観劇体験になった。セットのドアが下手にあり下手ハケが多くて、その分下手での芝居が多かったのがまだしも救いだったが、逆サイドのバルコニーの人には同情を禁じ得ない。クライマックス直前のシーンとか、全然見えないんじゃないですか。あっちの人には3000円ぐらい返してやってくれよ

[2023-1-8 追記]
サンケイホールブリーゼのバルコニー席の見え方を検索して来られる方のために書いておきます。座席は2階Rサイド20番でした。上記うろ覚えスケッチの回転舞台上の細い柱がステージ中央です


補足説明

なぜ見に行ったのか
前回の記事を書いたあと、「読んでくれはった人、どんな人なんやろ?」と思って、リツイートやイイネをくれはった人のツイートをチラホラ見に行ったら、結構な数の人が「盗聴おもしろかった!」って言うてはって、そうなんや、そんなおもろいなら見てみたいな、と思ったから。クチコミは大事。感謝しかない。おもろいコンテンツはどんどんクチコんでほしい
翌日の当日券はどうなったか
キャンセル待ちのかたに流れたと思う。結果的に座席がカスだったという一点において、キャンセル待ちで行かずに、確実に確保できていた当日券で行ってもよかったな、とは思うものの、当日券が見切れ席でない保証もなく、時世柄突然休演することもあるし、自分が行けなくなることもあるし、行けるときに行こうと思った。見られてよかった。当日券予約の仕組みはとても便利だと思ったし、キャンセル待ちシステムがあることで、空席が生まれないことが明らかなので後顧の憂いなく当日券での再鑑賞は見送ることができたのも良かった。再度見に行ってもよかったんやけど、できるだけまだ見ていない人に渡るべきだと思ったので。私が当日券を獲得したせいで当日券ではなくキャンセル待ちしか取れなかったかたには申し訳ありません、キャンセル待ちに神席が割り振られることもあるそうなのでそこは何卒許してほしい。なお当日券争奪は2回ともパソコンから地道な手入力でチャレンジし、キャンセル待ちの受付メール受信のタイムスタンプは10:02、当日券は10:00でした
本編と全然関係ないこと
濵田さんの日記(12/5まで無料公開中)を拝読したところ、大阪公演中におそらく福島の「ラーメン人生JET」に行かれたようなのですが、「ラーメン人生JET」のもう一つ向こうの筋にある「まんかい」というお店のトマとん(トマト豚骨ラーメン)がめちゃめちゃおいしいのでおすすめです。ライブハウスLIVE SQUARE 2nd LINEの近くです。ただ私はラーメン人生JETは合わなかったんで、濵田さんとは好みが違うやろうな。トマとんめっちゃうまいんやけどな
次回
年明けの小瀧さんのやつチケット買った。スポーツの話だと聞いたので。神山さんのやつは、安部公房を理解できる気がしないのとチケット価格に慄いて(*3)、いや、これはちょっとな…と思っていたけど酒が入った状態でネット見てたときに先行やってるのを見つけてうっかり申し込んだので、もし当たればありがたく拝みに行きたい。まあ多分外れるやろ



舞台「盗聴」
https://touchou-stage.com/ *2022/12/20サイト閉鎖
2022年10月31日〜11月21日 東京グローブ座
2022年11月30日〜12月3日 サンケイホールブリーゼ
(全32公演)
脚本・演出:西田征史
出演:濵田崇裕/武田玲奈/有輝(土佐兄弟)/渋谷謙人/上野なつひ/兒玉宣勝/阿久澤菜々/浦田大地
主催・企画製作:東京グローブ座


*1:あとで調べた。あれがカーテンコールというもので、毎回やるものらしい。知らなかった。歌舞伎の場合だとそもそも通常はカーテンコールはなくて、昔「夏祭浪花鑑」を見に行ったとき(2007年)なんてまだ若手ホープだった主演の片岡愛之助が千秋楽に「先輩方が出てきてくれないんで」と言って1人で出てきた記憶がある

*2:遠目だったので、全くの見間違いだったらすみません

*3:「盗聴」も制服姿の学生さんがチラホラ見受けられ、自分が高校生のときは9000円は出せなかったな…すごいな…と感心した